一柳 慧プロデュースによる二つのプログラム

セッポ・キマネン チェロ・リサイタル 

白夜の国・フィンランドの至芸

神奈川県民ホール

Music with and without the key

KAAT神奈川芸術劇場

音楽によって時代を解きほぐす
音楽を通して文化を前進させる

 「音楽によって時代を解きほぐす」。そう語る一柳慧には、1960年代から創作の第一線に立ってきた作曲家ならではの時代を捉える強い眼差しがある。その眼差しは、自身の創作にとどまらず、神奈川芸術文化財団芸術総監督として、国や世代を越えて多くの才能を見出すことにも向けられてきた。

 今秋、一柳が見出した音楽家に出会う二つの企画が、神奈川県民ホールとKAAT神奈川芸術劇場で開催される。その内容について一柳から話を聞いた。

 県民ホール・小ホールでは、フィンランドのチェリスト、セッポ・キマネンが、若手実力派ピアニスト、マルコ・ヒルポと来日し、リサイタルを開く。

 キマネンは、フィンランド放送響の元首席チェロ奏者で、北欧を代表するシベリウス・カルテットや館野ピアノ・トリオのメンバーとして活躍、さらにフィンランド最大の音楽祭「クフモ室内楽音楽祭」の創設者として同音楽祭芸術監督を長らく務めた後、駐日フィンランド大使館の文化参事官を務めたこともあるフィンランドきってのアクティブな音楽家だ。

 「古典と現代を交えたプログラムによって、相乗効果が生まれ、音楽の未来につながる視点が生まれてくる」という一柳の思いに応えてキマネンは、「非常にバランスの取れたプログラム」(一柳)を組んでくれた。

 ブラームス円熟期の大曲「チェロ・ソナタ第2番」と、シューマンが創作の頂点にあった1849年作曲の「幻想小曲集 」というドイツ・ロマン派の香り高い2作品、フォーレ「エレジー」とフィンランド音楽を代表するシベリウスとコッコネンの詩情豊かな作品。現代音楽から、一柳が日本チェロ界を代表する堤剛の70歳のお祝いに作曲した「プレリュード」と、フィンランド出身で国際的に活躍するリンドベルイが作曲家ブーレーズの80歳を記念して作曲した「ジュビリーズ」(ピアノ独奏)というそれぞれが敬愛する音楽家に捧げられた2作品も盛り込まれている。

 リサイタル前日には、「文化」という大きな視点をもつキマネンと一柳によるシンポジウム「日本・フィンランドの音楽事情と展望」も開催。二人が嘱望する日本とフィンランドの作曲家、川島素晴とペルットゥ・ポロネンも登壇し、語り合う。この二人の作品の演奏も交える充実した内容だ。

 「優れた演奏家と音楽文化を新たに作っていけば、閉塞感を克服して社会を前に進められる」。この一柳のヴィジョンを実現する場となるのが、KAATでの公演。

 塩田千春展「鍵のかかった部屋」の会場で、一柳の「弦楽四重奏曲第3番《インナー・ランドスケープ》」と「ピアノ協奏曲《ジャズ》」2台ピアノ編曲版が演奏される。

 《ジャズ》は、初演以来ジャズ・ピアニスト山下洋輔のソロで演奏されてきたが、今回は中川俊郎と中川賢一というそれぞれ作曲家(俊郎)、指揮者(賢一)でもある現代音楽界きっての名手二人により、同作品に新たな光があてられる。

 《インナー・ランドスケープ》では、チェロの多井智紀と邦楽囃子笛方の石渡大介がヴァイオリン、サクソフォンの大石将紀がヴィオラと、本来とは別ジャンル、別の楽器の演奏家によって弦楽四重奏が組まれ、奏者は時に本来の自分の楽器に持ち替えつつ演奏を進めるという大胆な企てが行われる。楽譜を読み込み作品を十分に捉えた気鋭音楽家たちが臨む予測不能、スリリングな音楽の時を、現代アートの濃密な場で体感する刺激的な公演にご期待を。

 今年を皮切りに、県民ホール、KAAT、県立音楽堂では、一柳慧と白井晃両芸術監督がプロデュースする多彩な企画を順次開催していく予定。本誌で逐次紹介するのでお見逃しなく。

取材・文:川西真理


一柳 慧プロデュース

セッポ・キマネン チェロ・リサイタル

白夜の国・フィンランドの至芸

2016年10月29日(土) 15:00 神奈川県民ホール 〈小ホール〉  

出演:セッポ・キマネン(チェロ)、マルコ・ヒルポ(ピアノ)

シューマン:幻想小曲集 作品73

コッコネン:ソナタ

フォーレ:エレジー 作品24

リンドベルイ:ジュビリーズから三つの楽章

一柳 慧:独奏チェロのための「プレリュード」

シベリウス:四つの小品 作品78より Ⅱ.ロマンス Ⅲ.レリジオーソ 

ブラームス:ソナタ第2番 ヘ長調 作品99 

全席指定 一般4000円 学生(24歳以下)2000円

シンポジウム(実演付き)

ー日本・フィンランドの音楽事情と展望ー

10月28日(金) 19:00 神奈川県民ホール 〈小ホール〉

登壇者:一柳 慧、セッポ・キマネン、川島素晴(作曲家)、

    ペルットゥ・ポロネン(作曲家)

司会:柴辻純子(音楽学・音楽評論) 

実演:セッポ・キマネン、神田佳子(打楽器)を予定

全席自由 500円(10/29公演のチケット提示で無料)


一柳 慧プロデュース

Music with and without the key

2016年10月9日(日) 19:00 / 20:30 KAAT神奈川芸術劇場 〈中スタジオ〉 

詳細はこちらをご覧ください。


photo(上から)

右:一柳 慧 ©Koh Okabe 左:セッポ・キマネン

マルコ・ヒルポ

一柳 慧(2016年7月 東京・渋谷にて)

kanagawa ARTS PRESS

神奈川芸術プレス WEB版