知れば、知るほど、好きになる 「漆の時間」、「スネアドラム(小太鼓)」
美術の小箱
漆の時間
漆の時間はとても長い。
漆は古いものでおよそ1万年前、縄文時代の出土品がある。その頃から人に用いられてきた漆は、今でこそ日常生活に馴染みの素材とは言えないが、土と同じくらい古くから日本人と密接に関わってきた素材といえる。
数年前、福島県立博物館で、赤色の漆が塗られた一寸程の小さな糸玉が数点展示されているのを見た。それは、漆を塗った糸を数本の束にして結んだもので、縄文時代に装身具の一部に用いられていたそうだ。縄文時代のものが残っているだけでも驚きなのだけれど、その漆の糸玉の中はパイプ状で空洞になっていると説明文に書いてあった。
長い間地中にあったことで中の糸は分解され土に還り、漆が塗られていた部分だけが残ったのだろう。漆が塗られて頑丈に見えた糸玉に、一転、とても繊細に年月を体現する表情が見えた。
生き物と同じように、素材もいろいろな時間を持っている。それぞれの時間軸のどこかで関わり、そして離れてゆく。
こうして時間でとらえると、漆は当たり前のように僕より長生きで、目の前の漆もすでに長い時間を生きている。漆の時間軸の真ん中あたりの点で僕たち作家は漆に関わっている。
文:染谷 聡(漆作家)
1983年生まれ。京都市在住。12/19から神奈川県民ホールギャラリーにて開催する「5Rooms―感覚を開く5つの個展」に出品。
FOCUS1 5Rooms-感覚を開く5つの個展もご覧ください。
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〈みしき〉 2014年 染谷 聡 漆、枝、フォルモなど photo: Rui Mizuki
楽器ミュージアム
スネアドラム(小太鼓)
歯切れよい響きが魅力のスネアドラムは、吹奏楽やオーケストラはもちろんジャズやロックでも必須の打楽器。胴の上下に皮(現在はほとんどがプラスチック製)を張り、さらに下面の皮にコイル状の細い金属線を20本ほど束ねた「響き線」を付けて、小さなボディからパワフルかつ細やかにリズムを刻みます。
皮を叩く撥は片側の先端を球や豆形に削った木製で、左右ともに上から包むように構える持ち方と、左手を右手とは逆向きに親指と人差し指で挟み込むように持つ「トラディショナル」と呼ばれる持ち方とがあります。左右非対称で不自然にも見える「トラディショナル」は、かつて軍隊のなかでスネアを肩から右に吊り下げ打面も右に傾けていたため、左手からでも叩きやすいように考え出されたものでした。
スネアドラムの元となった太鼓は羊腸製の響き線を1、2本付けた中世の「テイバー」という太鼓で、当初は行進などの合図用に使われていましたが、時代を経て改良が進み、オーケストラの重要なパートになっていきます。20世紀前半には2小節のリズムをスネアドラムが冒頭から最後まで叩き続けるラヴェルの「ボレロ」が発表され(1928年)、話題となりました。
今日、さまざまな音楽ジャンルで使われるスネアドラムは、撥の形状(ジャズで多用されるワイヤーブラシなど)や胴の素材、サイズの違いなどで楽器ごとに異なる響きの特徴を持っています。
ステージでスネアドラムをみかけたら、じっと観察しながら耳を澄ますのも一興です。
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胴の標準的なサイズは直径14インチ(約35.6センチ)、深さ5 1/2インチ(約14センチ)
オーケストラやドラムセットではスタンドの上に置いて叩きます
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