山本理顕の 街は舞台だ「江ノ島電鉄」
優しいインフラ
江ノ島電鉄
東京に近いほど、より経済的な価値が上がると政治家たちは信じ込んでいる。新幹線網や高速道路網は日本の隅々まで整備され、東京との距離は年々縮められている。距離は時間で計られ、東京までの時間が短ければ短いほど、地方都市は活性化されると思っているのである。ところが、である。そのために逆に地方都市の住人たちのための交通インフラは相当お粗末なものになってしまった。休みの日に買い物するなら、自分の街より原宿や渋谷に行った方が楽しい。おしゃれなものが手に入る。自分が住むこんなダサい街にはなんにもないさ。
本来、豊かな住環境は同時に住民のためのローカルなインフラをその内側にもっているものである。例えばヴェニス、縦横に張り巡らされた運河網が日常の生活動線である。あるいはトラム。多くのヨーロッパの都市ではその運行システムによって、市民は自由に都市内を動き回ることができる。日常生活のためのインフラが十分に整っているのである。
江ノ電はいい。すいませんねえ、と言いながら住宅の軒をかすめるようにゆっくり走る電車は市民のための交通機関だ。生活の中に交通インフラが完全に溶け込んでいるのである。
もう少し工夫をしたらさらに良くなる。線路の周辺をウッドデッキにする。住宅のテラスのようになる。そこにお茶屋さんができる。そして夏の間は屋根のない電車を走らせる。水着で乗る。それだけで、江ノ電周辺は十分に幸せな環境になる。 (談)
*トラム:路面電車、市街電車のこと。
交通:江ノ島電鉄「鎌倉」駅から「藤沢」駅 営業キロ10.0km 15駅
企画・監修:山本理顕(建築家)
1945年生まれ。71年、東京藝術大学大学院美術研究科建築専攻修了。東京大学生産技術研究所原研究室生。73年、株式会社山本理顕設計工場を設立。2007年、横浜国立大学大学院教授に就任(〜11年)。11年、横浜国立大学大学院客員教授に就任(〜13年)。
イラスト、Photo(上から)
画:山本理顕
まさに暮らしに密着した鉄道 撮影:山本理顕
取材中の山本理顕氏
地元民には江の電と共存するルールがある
満福寺の階段を下りるとすぐに線路 撮影:山本理顕
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