知れば、知るほど、好きになる 「シェイクスピアは国王の家来!?」、「フルート」

演劇の小箱

シェイクスピアは国王の家来!?

 ウィリアム・シェイクスピア(1564~1616)が公演をした劇場「グローブ座」は広く知られています。では、彼の劇団を知っていますか。その名前は「宮内大臣一座」。現代の感覚からすると、ちょっと不思議な名前ですが、当時のイギリスで活躍した主な劇団の名前は「女王一座」「海軍大臣一座」「ストレインジ卿一座」といったものばかりです。上流階級の人々が劇団のオーナーだったのでしょうか。役者は貴族の家来だったのでしょうか。

 16世紀後半、ロンドンでは次々と劇場が建設され、演劇は興隆を誇ります。エリザベス一世も宮中に劇団を招き、観劇を楽しみました。

 当時のイギリスは古い社会構造が壊れ、国中に浮浪者が溢れます。彼らは捕われ、場合によっては縛り首にあうこともありました。そして、1572年の「浮浪者処罰令」により、旅回りの役者たちも同様に扱われる可能性が高くなったのです。一流の劇団は貴族を庇護者とし、貴族の家来という建前で、我が身を守りました。しかし、貴族たちは劇団に名前を貸すだけで、経済的援助はしませんでした。各劇団は「宮中上演のリハーサル」という建前で市中興行し、収入を得ていたのです。シェイクスピアたち演劇人にとって、貴族の庇護は必須でした。1603年、演劇好きのジェイムス一世の即位と同時に「宮内大臣一座」は「国王一座」となります。


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ウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare)


楽器ミュージアム

フルート

 ハーメルンの笛吹き男やモーツァルトの「魔笛」に見られるように、笛は不思議な力をもつ楽器とみなされてきました。そんな笛のなかでも最も人気のあるフルートの特徴は管の上端が閉じられていること。頭部に開けた歌口の縁に息を吹き付けて奏します。素材は白銅、銀、金などの金属で、木製もあり……え? 木管楽器のフルートが金属製!? 

 ルネサンス期、フルートは木製でした。円筒に歌口と6つの指穴を開けた簡素な構造のため吹ける音の高さは限られていたため、17世紀後半、本体を円錐にして指穴にキーを1個付けて殆どの半音が出るよう改良されます。こうしてフルートは人気のソロ楽器へと躍進。王侯貴族にも愛好者が続出します。しかし木製のため響きが繊細なフルートは、その後、大編成となっていくオーケストラの楽器のひとつに過ぎなくなります。

 19世紀半ば、テオバルト・ベームは、材質を共鳴のよい銀に変え、指穴と歌口を広げ、指穴全てにキーを付けるなど大改造を施しました。こうしてフルートはより豊かな音色と均整のとれた響きを獲得し、演奏家たちは新型フルートの能力を最大限に引き出す奏法を編み出し名演を繰り広げます。こうなると今度は創作の最前線にいる作曲家たちが目をつけます。ドビュッシーは「牧神の午後への前奏曲」でフルートを活かして20世紀音楽の扉を開き、20世紀後半には現代音楽の作曲家たちがさまざまな特殊奏法を用いてフルートの表現力をさらに高めていきました。

 進化した楽器が音楽家を触発し、そこからまた楽器が進化する。そんな限りない可能性が楽器には秘められています。

音域はドから3オクターヴ上のドまで。頭部管・胴部・足部管の3部分をつなげて奏する

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