山本理顕の 街は舞台だ「山下埠頭」
未来の横浜の中心地にカジノとは
山下埠頭
日本各地でカジノを含む統合型リゾート施設(IR)を核とした開発計画が構想されている。
そんな中、横浜市が2015年9月に「横浜市山下ふ頭開発基本計画」を発表した。その目指す都市像は「ハーバーリゾートの形成」だ。かつては横浜港の物流の中心だった山下埠頭だが、現在は本牧ふ頭や南本牧ふ頭で扱うコンテナのバック・ヤードとなっている。その47haある敷地に、巨大ショッピング・エリア、コンベンション施設、球場、カジノ・ホテル*などを誘致するという計画だ。
またしても観光客を呼び込むことのみを考えた計画だ。未来の横浜の住民を一切想定していない街づくりである。「みなとみらい21」の失敗から何ら学んでいない。観光施設と大企業の誘致を見込んだ「みなとみらい21」は、実際には全体の67%しか開発されていないのだ。
横浜開港150周年を期に検討され2011年に発表されて「都心臨海部・インナーハーバー整備構想」**中期的取組方針では、内港地区(ベイブリッジの内側、京浜東北線・根岸線より海側)に現在の約2倍の20万人の居住者を創出することを提言していたはずだ。その視点はどこへいってしまったのか。
本来の観光地は、そこに住む人たちによってつくられるのである。住人たちによる固有の暮らし方が魅力ある都市景観をつくりだすのである。京都、ベネチア、アムステルダム、バリ島、マラケッシュ、人びとを魅了する観光地のすべてがそうである。
巨大カジノやアミューズメント施設計画を推し進める人たちは、市民の日常生活とは全く無関係なギャンブルやテーマパークのような虚構の空間に熱中する人たちを無理矢理にでも掘り起こそうとする客引き・押し売り屋の類いとさして変わらない。目先の利益を目的とするテーマパーク的な施設は、次の新しい施設ができたら見向きもされなくなるだろう。
そこで暮らし、働いている人たちが主役になり主人にならなければ観光客は来ない。観光客はそこに住む人たちと一緒にその場所を楽しみたいのだ。水の都として愛されるベネチア市は、人口5万5千人***の小さな街だが、年間観光客数は述べ3418万人***を超える。こんなに楽しそうに住民が住んでいる街は他にないとみんな思うからである。
地域社会の固有で独自の生活と文化を世界に向かって問いかける、それがいま求められている都市計画である。山下埠頭は47haある。高層ビルなんか建てなくても、人口2万人程度が暮らす街をつくることができる。そこに住む人々が、そこにしかない独自の住み方を考案して、お店やカフェや道や運河と一緒になって世界に例のないウォーターフロントの街並みをつくる。“その街に住んでいる”と胸をはっていえるような街をつくることができるのだ。
都市計画とは、未来をつくり、新たな歴史をつくることである。横浜らしくて、そしていままでになかった街を生み出す。山下埠頭は未来の横浜の中心地なのである。(談)
図:「Wall city」 田中裕一 (横浜国立大学大学院/建築都市スクール Y-GSA、山本スタジオ 2007年)の提案を原案にしてそれに山本が手を加えた。居住とお店の混在した街にする。レストラン、カフェ、ファッション、工芸品、加工品、何でもありの街である。そこに住む人が同時にそのお店に責任を持つような営業形態、つまり家業である。新たな家業と共に住む。そのような街を構想する。5~10階建ての建築で2万人の都市は十分に可能である。今までにないウォーターフロントができる。観光客と家業を営む人とによってつくられる全く新しい街である。(数字は各ゾーンの住戸数)
*カジノ・ホテル:市はイメージとしてシンガポールのマリーナベイサンズ(シンガポールにある高層ビルを三つ屋上でつなげたリゾートホテル。500のテーブルと1600のスロットマシーンがある単独では世界最大のカジノを有する)をあげている。
**都心臨海部・インナーハーバー整備構想:横浜開港150周年を契機に、都心臨海部・インナーハーバーの次の50年を見据えた都市像や街づくりについて検討した。
*** 2015年イタリア政府観光局
住所:神奈川県横浜市中区山下町
交通:横浜高速鉄道みなとみらい線「元町・中華街」
市営バス20系統「山下ふ頭」行き、終点下車
企画・監修:山本理顕(建築家)
1945年生まれ。71年、東京藝術大学大学院美術研究科建築専攻修了。東京大学生産技術研究所原研究室生。73年、株式会社山本理顕設計工場を設立。2007年、横浜国立大学大学院教授に就任(〜11年)。11年、横浜国立大学大学院客員教授に就任(〜13年)。
Photo
山下埠頭は、まさに横浜ウォーターフロントの中心 写真提供:グーグル
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