知れば、知るほど、好きになる 「パントマイム」、「ホルン(フレンチホルン)」

演劇の小箱

パントマイム

 パントマイムといえば、目に見えない壁や階段をあるかのように見せる芸、サーカスのピエロや大道芸人を思い浮かべる方もいるでしょう。言葉を使わずに、身振りや表情だけで情景や物語をすべて表現するパントマイムは、英語ではマイム(mime)といいます。古典ギリシャ語の「Panto=あらゆる」「Minos=モノマネ」が語源で、古代ギリシャの仮面舞踏が始まりといわれています。

 16世紀頃、イタリアで生まれたコメディア・デッラルテと呼ばれる風刺喜劇/即興劇を演じる多くの旅芸人一座が、ヨーロッパ各地を巡りました。言葉の壁を越えるために、演技は誇張され無言劇のテクニックが発達したと考えられています。

 19世紀になるとフランスのジャン・ドビュローが、白塗りの顔に白い衣装のメランコリックなピエロのイメージを確立。ジョルジュ・サンドなどの文学者に絶賛されます。

 20世紀には映画「天井桟敷の人々」のバチスト役*で知られるジャン=ルイ・バローや「沈黙の詩人」と呼ばれるマルセル・マルソーなど、芸術性の高いパントマイミストが次々と登場しました。

 1960年代のイギリスではリンゼイ・ケンプが、日本の前衛舞踏などと融合させたパントマイムを生み出し、デヴィッド・ボウイなど、後のポップ・カルチャーに多大な影響を与えるのです。


*バチスト役:上記のジャン・ドビュローがモデル。


Photo

アルレッキーノ:コメディア・デッラルテの中のキャラクター。道化。


楽器ミュージアム

ホルン(フレンチホルン)

 ホルンの先祖は神話の時代からある「角笛」。時を経て、乗馬しながら吹けるように長い金属管を大きな輪に巻いて肩から提げ、音が出る部分「ベル」を後ろに向けた独特の形状になりました。現代のホルンの管は約2.7~3.7mもあり、この長さによって広い音域をカバーし、音色は柔らかく、ベルから出る音は奏者の背後の壁に反射して広がりのある豊かな響きになります。

管先端のマウスピースに息を吹き込んで音を出しますが、その際、唇を軽く閉じてマウスピースにあて唇を振動させます。唇を強く締めると振動が細かくなり高い音が、唇を緩めれば振動が遅くなって低い音が出ます。しかし、管の長さで決まる「倍音」と呼ばれる周波数の音しか出せないため、半音などを出すことはできません。このため19世紀半ば、管の長さを即座に変えられるバルブを付けるという改良が施されました。

とはいえ、このバルブ式ホルン以前でも、音の高さを変えることのできる奏法が編み出されていました。奏者はホルンを支えるためベルの穴に右手を差し入れるのですが、その際手の入れ方を変えて穴の大きさを調整して高さや音質を変化させるのです。現代のバルブ式ホルンでも、音に微妙な変化をつける際にこの奏法が使われています。

 こうした繊細な奏法を要するホルンは金管楽器の中でも最も難しい楽器といわれています。今秋、県立音楽堂ではホルン界きっての名手S.ドールを交えた「アンサンブル・ウィーン=ベルリン」が出演します。お楽しみに。


kanagawa ARTS PRESS

神奈川芸術プレス WEB版