舞台裏の劇場「バトンと操作盤」

 めったに入れない劇場・音楽ホールの舞台裏に潜入してみるとそこもまた、表舞台に負けず劣らずのドラマが繰り広げられる「劇場」です。

 今回の「劇場」は7月から2018年春まで工事休館に入った神奈川県民ホールの「舞台」。何が新しくなるのでしょう?


神奈川県民ホール 舞台機構

バトンと操作盤

神奈川県民ホール開館以来の歴史を支えた重厚な操作盤。改修後は約180センチ幅のコンパクトサイズの最新式に


 「バトン」は舞台天井からズラリと下がった鉄製のパイプ。華麗な光と影を生み出す照明機材を吊る照明バトン、情景を描いた背景幕やカーテンなどを吊る美術バトンがあり、県民ホールには合わせて約50本。このバトンを動かすのが舞台下手袖の操作盤。公演前後に照明や幕を吊りこんだりはずしたりする「仕込み」「バラシ」作業などだけでなく、上演中、華麗に背景幕が切り替わって舞台が早変わり! といった時のバトンの上げ下げは、盤にズラリと並んだボタンで舞台技術さんが操作します。口で言うのは簡単ですが、例えば同時に3本を、床面から1メータ、3メータ、5メータの距離でピタッと止めろ! なんて言われたら…? バトン1本200kgの荷重を支えるボタン一つにも重量があり、押す指に力が入ります。バトンの動くスピードは一定。機械の反応誤差(スベリ)も計算して、2-3人掛かりで時間差でプッシュ! ベテランの職人ワザには「鮮やか!」と声をかけたくなります。改修後はこれがタッチパネル、コンピュータであらゆる速度設定、同時プログラミングが可能な小型の卓になるそう。バトンも総入れ替えで、耐荷重は1本あたり300kg増え、これまで必要だった仮設の仕込みやバラシ作業も格段に早く、上演中の舞台転換もスムーズになります。既にそれを期待して海外の大型オペラの引越し公演などの引き合いもあるそう。40余年を経た県民ホールの歴史が、新しい第2幕に入るということなのでしょう。 

照明機材や幕を吊るバトンの数々

3人で息を合わせてプッシュ!まさに職人ワザ

歴代の技術さんが指を支える場所のペンキは剥げて。40年余の汗と涙の結晶



今では扱える職人さんも減ってきていると言われる「手引き」(完全手動)の綱元。シズ(おもり)で固定する。


華麗な舞台を支える舞台技術の機構チーム

息を合わせてバトンを降ろす!


 Photo:岡田秀明

kanagawa ARTS PRESS

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