舞台裏の劇場「劇場を支える『地下帝国』」

 めったに入れない劇場・音楽ホールの舞台裏に潜入すれば、そこもまたドラマに満ちた「劇場」。

 「舞台裏の劇場」第2弾は、前回に続き工事休館中の神奈川県民ホールの「地下帝国」をご紹介します。


神奈川県民ホール ボイラーと電気、中央監視室

劇場を支える「地下帝国」

「蒸気機関車?」と見紛うような巨大な煙管ボイラーが3台。1日最大10〜11トン相当の蒸気を発生させ、暖房と冷房に利用します。


 神奈川県民ホールの地下には何があるかご存知ですか? 謎の地底湖が広がって……いたりはしません。しかし公演や展覧会に来場されるお客様の足下には本当に、出演者も舞台スタッフも、劇場スタッフでさえも入ったことのない「県民ホール地下帝国」の広大な空間が広がっています。

 受変電室と聞いて何だかわかりますか? そこは県民ホールの心臓部。県民ホールに引かれた何万ボルトもの電気を、建物全体に分配します。公演中に決して電気の不具合などが生じないように、複数の変圧器を複雑に組み合わせて常に必要な箇所に必要な分だけの電気が供給されるようになっています。あわや停電! という時でも、ディーゼルエンジンの自家発電機が作動し、数時間はバックアップをしてくれるそうです。

 ボイラー室に入ってすぐ目を引くのは、蒸気機関車!? と見紛う巨大な3台のボイラー。大小ホールや会議室、ギャラリーと、日に何千人ものお客様が出入りする建物全体を常に快適な温度湿度に保つため、年間365日稼動し、1台あたり約2.4トンの保有水から蒸気を発生させ、循環させます。開館以来40年以上変わらない、年季が入った古めかしい形ですが、21世紀の現在もこれが最も効率が良く、改修後も変わらず働き続けるそう。

 ボイラー室は火気を扱う場所。毎年11月には「火入れ式」を行い、安全祈願をします。そんな日は年に一度「地下帝国」にも人が集まり、「冬の到来」を実感します。

 これらの精密な機械を操るのが、中央監視室のスタッフたちです。いくつもの専門的資格を持った経験豊かなスタッフ数名が一年中シフトを組み、見えない地下から、ストイックに華やかなアートの世界を支えているのです。

壁にズラリと並んだ工具! 一つひとつ形やサイズの違う、年季の入ったスパナやドライバー。欠けや戻し忘れのないよう、壁に輪郭が描かれています。絶対に手違いを許さない精密な仕事振りが感じられます。


「地下帝国の番人」は「気は優しくて力持ち」を地で行く中央監視室スタッフ。暑い、寒い、もっと電力を…といった要望に的確に応えます。


Photo:岡田秀明

kanagawa ARTS PRESS

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