山本理顕の 街は舞台だ「郊外農業」
1家族=1農家ではなく、1コミュニティ=1農家となる。
郊外農業 (茅ヶ崎市 松林・菱沼地区)
MAP:2050年、戸建て住宅の集合化が進んだ先の地域社会の姿
都市圏の郊外には、ベッドタウンとしての戸建て住宅群と虫食い状態で残る農地が無秩序に混在している。両者には何の関係性もない。宅地に暮らす人々は、畑で誰が何を育てているのか、その野菜がどこで売られているのかを知らない。そして農家の高齢化と跡継ぎ不足により、農地の宅地化・荒地化がさらに加速している。それでも1農家=1家族という農業経営と1住宅=1家族という住宅供給システムは変わっていない。
現在残っている農家=地主を町の拠点とし、地域コミュニティを取り戻すことは出来ないだろうか。農業に関心のある人たちが集まる新たな町づくり。1家族1農家ではなく、1コミュニティが1農家となるのだ。
郊外農業は、生産地と消費地が重なり合っている。町の中で生産から消費までを循環させることが可能だ。生産だけでなく販売・加工・調理などに携わる人全てを農家の住人とし、共に暮らす町づくりを行う。そのためには、そうした活動に相応しい住宅の提案が求められる。戸建て住宅ではなく、集合住宅。農地所有者(地主)が大家になる。住人は家賃を払って住む。でも農業活動に参加することで収入を得ることができるわけである。
1農家=1家族でも大量生産でもないスケールだからこそ野菜の少量多品種生産が可能となる。独自の野菜の名産品化という地域性を生かしたブランド化も可能だ。ブランド野菜の販売やそれらを利用した加工食品の開発、レストランの経営など、農業を中心とした観光化も夢ではない。
ブランド化が進み地域の産業として定着すれば、住民にとっては地域産業となり、より安定した地域社会が誕生する。土地の個性も明確になり、単なるベッドタウンでは期待できない地域社会の関係も生まれてくるのである。(談)
「農の町-都市型農業の新しい形への転換-」 諸星佑香 (横浜国立大学大学院/建築都市スクールY-GSA、山本スタジオ2017)
・ 地域に残っている農家を中心として共同体を作り、農地を個人所有ではなく、地域社会全体で一括に管理をする。 ・それぞれの地主農家の家を新しい居住単位「共同農家」に建て替える。大屋根を持つ、農業の拠点として町に開かれた共同農家は、地主農家はもちろん、新たに移住した人々の共同住宅であり、さらに収穫物の加工場、直売所であり、レストランとなる。農業と町を繋ぐ拠点である。 ・農地は、道と畑の両方に開くことで、農の風景が町に溢れ出て、地域社会の風景を生み出す。
断面図: 大屋根の下に住居、作業場、直売所等の空間が集まる
平面図:拠点となる「農の家」 18世帯/1F 583.2㎡・2F 602.7㎡
企画・監修:山本理顕(建築家)
1945年生まれ。71年、東京藝術大学大学院美術研究科建築専攻修了。東京大学生産技術研究所原研究室生。73年、株式会社山本理顕設計工場を設立。2007年、横浜国立大学大学院教授に就任(〜11年)。17年〜現在、横浜国立大学大学院客員教授。
郊外住宅地に点在する農地
戸建て住宅群と農地が何の関係性もなく広がる郊外風景。
戸建て住宅群と虫食い状態で残る農地が無秩序に混在する。
宅地に暮らす人々は、畑で誰が何を育てているのか、その野菜がどこで売られているのかを知らない。
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