神奈川芸術文化財団 芸術監督プロジェクト ミュージック・クロスロード

神奈川県立音楽堂

三世代の作曲家による三つのコンチェルト
いくつもの創造力が出会い、交差する


今を問う「芸術監督プロジェクト」

 神奈川芸術文化財団の二人の芸術監督による「芸術監督プロジェクト」。2018年1月は、舞台芸術の先端を生きる一柳慧財団芸術総監督が音楽監督としてコンサートを企画、白井晃KAAT神奈川芸術劇場芸術監督が空間構成を監修します。

 「芸術は今、どこに立っているのか?」。長年にわたる活動を経ながら、つねに根本的な問いに向かい合い若々しい情熱を燃やす一柳は、20代、40代、そして一柳自身である80代の三世代にわたる作曲家による三つの協奏曲を選曲しました。立脚点の異なる三人の協奏曲を通じて、「今を生きる」表現を探求するコンサートが実現します。


変革をもたらすエネルギーを持つ作曲家

 一柳が「従来のやり方や状況を変えるエネルギーを発している」と語る二人の作曲家は森円花と山本和智です。

 1994年生まれの森は、今春桐朋学園大学院を修了、同大の講師を務める才媛。「音のアトリウムⅢ~独奏チェロとオーケストラのための~」(2018)は、若干20歳で2014年の日本音楽コンクール作曲部門第2位を授賞しました。「より強い伝達力」を目指し現在さらに推敲を重ねているという同作品で森は、ソリストを主軸とする協奏曲様式を踏襲しつつ、その伝統とは異なるソリストとオーケストラの関係性を構築し、「ソリストとオーケストラが共にさまざまな音のアトリウム(空間)を創造する」ことを目指しています。

 山本和智は1975年生まれ。武満徹作曲賞第2位ほか国内外の作曲コンクールで入賞、国内外で積極的に作品を発表しています。作曲は独学という経歴にふさわしく、既成概念にとらわれないアイディアで現代音楽界の衆目を集める逸材です。「3人の箏奏者と室内オーケストラのための『散乱系』」(2015/17)は、ソロの3奏者にそれぞれ2面の箏をおき、それぞれの1面の箏からは絃を舞台から客席の上を抜け会場奥の天井へと張り出させるという前代未聞の演奏空間が準備されます。「糸によって客席まで音源を延長させた箏」(山本)から空間全体に「散乱」する音響を体験する唯一無二の機会です。


総決算かつ新境地でもある一柳作品

 一昨年、一柳のピアノ・ソロで初演された「ピアノ協奏曲第6番『禅ーZEN』」(2016)は、1950年代には実験音楽家ジョン・ケージと活動を共にし、その後も創作の最先端を担ってきた一柳の創作の総決算であり、かつ自身の枠を越えていくという意志を実現させた作品。一柳は、ピアノ・ソロの一部を図形楽譜で書き各セクションの演奏順序を自由に変えながら、特殊奏法を用いるという前衛的手法を駆使しています。

 神奈川フィルハーモニー管弦楽団の指揮は、ミラノと東京を拠点に活躍する杉山洋一。作曲家である杉山の作品への深い洞察力は現代音楽界屈指と評されています。3作品に宿る創造力により閃きを存分に引き出してくれるでしょう。


創造力の出会いの交差点

  会場となる神奈川県立音楽堂は、建築家ル・コルビュジエの弟子で第二次世界大戦後の日本モダニズム建築を牽引した前川國男の初期傑作という、時代に先駆けて人々の感性を新たな地平へと誘ってきた場所。「枠にとらわれない音の世界。大実験を味わって欲しい」と一柳が語る、この音楽の地平を拓くコンサートにうってつけの場所といえるでしょう。

 いくつもの創造力が出会う交差点となった県立音楽堂に、ぜひご来場ください。

文:川西真理

山本作品では37本の絃が舞台から客席天井に伸びる


神奈川芸術文化財団 芸術監督プロジェクト

ミュージック・クロスロード

2018年1月20日(土) 14:00  神奈川県立音楽堂

音楽監督:一柳 慧(神奈川芸術文化財団 芸術総監督)

空間監修:白井 晃(KAAT神奈川芸術劇場 芸術監督)

出演:杉山洋一(指揮) 神奈川フィルハーモニー管弦楽団

   一柳 慧(ピアノ) 上野通明(チェロ) 平田紀子、寺井結子、中島裕康(箏) 

森 円花:音のアトリウムⅢ~独奏チェロとオーケストラのための~(2018)

山本和智:3人の箏奏者と室内オーケストラのための 「散乱系」(2015/17)

一柳 慧:ピアノ協奏曲第6番 「禅ーZEN」(2016) 

全席指定 一般4000円 特別ペア 7000円  U24(24歳以下)2000円 (特別ペア、U24は枚数限定)

※未就学児童入場不可(有料託児サービス有り・要事前予約)


Photo(上から)

一柳 慧 ©Koh Okabe

森 円花 ©Shigeto Imura

山本和智

kanagawa ARTS PRESS

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