My Roots My Favorites 荻野由美子(オルガニスト、神奈川県民ホールオルガン・アドバイザー)
ヨーロッパの教会で経験した響きは
忘れがたい体験でした。
高校生の時に、パイプオルガンが設置されたNHKホールがオープンしました。当時そのオルガンを演奏する様子がテレビでけっこう放送されたんです。足を使って演奏する低音の広がり、多彩な音色に耳を奪われ、5段も鍵盤があってどうやって弾くのかしら、と興味を持ちました。小さな時から教会に通っていたこともあり、オルガンを弾くことで新たな可能性が開けるかもしれない、やってみよう、と思い立ったのが、始めたきっかけです。
その後、東京芸大のオルガン科に進学し、卒業後教職に就いたのですが、留学したくてドイツで2年間学びました。いろいろな教会で親切にしていただき、オルガンを弾かせてもらえたんです。石造りで天井の高い教会、そこで生まれる響きを全身に浴びるようにしてオルガンを弾く機会は、日本ではほとんどありません。本当に忘れがたい体験でした。また、さまざまなオルガンを見たり弾いたりするため、地図と教会のリストを頼りに田舎の小さい教会を訪ね歩きました。ひょっとして1600年代から使っているのでは? というような古びた鍵束を渡されて、ゆっくり一日弾いていっていいよ、と放っておかれる、なんていう機会にも恵まれました。
いたるところに教会があり、オルガン作品が礼拝の中に自然に組み込まれ、信仰と生活に密着して存在しているのを目の当たりにしました。そして、コラール*の旋律それ自体が、ヨーロッパの人にとっては馴染みの深いメロディーなんだ、ということを実感しました。
帰国してからは、このオルガンの魅力をキリスト教国ではない日本でいかに伝えていくかを考えて活動しています。その音色に癒されたり元気づけられたりして、一人でも多くの方がオルガンを好きになってくださったら嬉しいですね。 (聞き手:結城美穂子)
荻野由美子 Yumiko Ogino
神奈川県出身。東京藝術大学音楽学部器楽科オルガン専攻、およびデュッセルドルフ音楽大学卒業。オルガンを越川真純、島田麗子、廣野嗣雄、J.ゲッフェルトの各氏に師事。現在、カトリック碑文谷サレジオ教会オルガニスト、神奈川県民ホール、および東京都北区北とぴあオルガン・アドバイザー、洗足学園音楽大学講師。日本オルガニスト協会、日本オルガン研究会会員。
*コラール:ドイツ・プロテスタント教会の讃美歌のこと。マルティン・ルターが宗教革命にあたり、それまでラテン語で歌われていたものを、
会衆一同で歌えるよう自国語(ドイツ語)にするべき、と主張したことに端を発する。
写真提供:横浜みなとみらいホール
©Atsushi Yokota
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