知れば、知るほど、好きになる「特殊奏法」、「トランペット」
音楽の小箱
特殊奏法
「特殊奏法」とは、「通常とは異なる方法で楽器を演奏する」という音楽ではよく使う言葉。しかし大きな音楽辞典でもこの項目はありません。楽器は英語で「instrument=道具」といいますが、道具がつねにその使い方をさまざま工夫されるように、古今東西の音楽家もあらゆる楽器で「特殊奏法」を編み出し音楽の表現を拡げてきました。このため辞書では、楽器ごとに「特殊奏法」の説明が必要となるからかもしれません。
「特殊奏法」を積極的に作品に取り入れた最も古い作曲家の一人は、今年生誕450年のモンテヴェルディです。彼は弦楽器の弦を弓で擦らず指ではじく「ピッツィカート」などいくつもの「特殊奏法」を用いて、当時の耳のこえたヴェネツィアの聴衆を驚かせました。
現代では、例えば20世紀前半にアメリカのヘンリー・カウエル (1897~1965)は、ピアノの鍵盤を手の平や拳、前腕等を使って弾く「トーン・クラスター(音塊)」奏法や、ピアノ内部に張られた金属弦を擦ったり叩いたりする「内部奏法」を発表しました。「内部奏法」は、カウエルの弟子であるジョン・ケージ(1912~92)により、金属弦の間にボルトやナット、木、ゴムなどを挿入することで鍵盤を押して出てくる音色や音の高さまでまったく変えてしまう「プリペアド・ピアノ」へと発展しました。
2018年1月20日に神奈川県立音楽堂で開催される〈ミュージック・クロスロード〉では、ケージとかつて活動を共にした作曲家・一柳慧の「ピアノ協奏曲第6番『禅-ZEN』」が演奏されますが、同曲にはこの「内部奏法」が出てきます。ぜひ聴きにいらしてください。
ケージ 「打楽器とプリペアド・ピアノのための “アモーレス”」で内部奏法をおこなう一柳慧
2015年1月10日公演より(神奈川県民ホール)
©青柳 聡
楽器ミュージアム
トランペット
輝かしいファンファーレを高らかに奏でるトランペットは、古代エジプト王の墓から見つかるほど歴史の古い楽器。戦場ではその勇ましい響きで敵を威圧し、ヨーロッパの王侯貴族は「権力の象徴」として宮廷お抱えトランペット奏者の人数を競い合いました。その当時のトランペット(ナチュラル・トランペット)は長い管の先が広がっただけのシンプルなもので、唇の動きや管に吹き込む息の速さだけで音の高さを変えていくため、出る音に限りがあり、また正確な高さの音を出すことは至難の技でした。
市民革命の時代を迎えた18世紀末、宮廷を離れた演奏家たちは、長さの異なる管をいくつも用意して曲にあわせて差し替えるなど、しきたりに縛られず自由に楽器を改良していきました。19世紀に入ると、管を替えずに管の長さを即座に変更できる「バルブ」を取り付けるという画期的な改良が施されました。
「バルブ」とは息の通り道を切り替えて管の長さを変える装置で、第1バルブを押すと1音下がり、第2バルブを押すと半音、第3バルブを押すと1音半下がります。
現在、バルブには「ピストン式(たて式)」と「ロータリー式(回転弁式)」の2タイプがあり、日本やアメリカ、フランスなどでは華やかで明るい音が冴える「ピストン式」が一般的です。「ロータリー式」はバルブの機構から楽器を横に寝かせて構えるのですが、木管や弦楽器にもよく溶け合う柔らかな響きで、ドイツやオーストリアなどではこのタイプが普及しています。トランペットを見かけたらその形状にもご注目を。
ナチュラル・トランペット 左手を腰にあて、右手だけで楽器を持ち奏した
ピストン式トランペット もっともよく使われるタイプは長さ50cmほど。曲げてある管を伸ばすと135cmもある
ロータリー式トランペット 円筒形のバルブを回転させて管の長さを切り替えるため、バルブを指で押さえるレバーの位置がピストン式と異なる
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