愛と哀しみの傑作(マスターピース)「椿姫」

ジュゼッペ・ヴェルディ

「椿姫」

 1843年、オペラ「ナブッコ」は記録的なヒット作となり、ジュゼッペ・ヴェルディは富と名声、さらに、その後の人生の伴侶となる女性を手に入れます。ヒロインを演じたソプラノ歌手ジュゼピーナ・ストレッポーニです。

 1849年、ヴェルディはジュゼピーナと共にパルマ近郊の故郷ブッセートに戻り、新たな生活を始めます。しかし、そこには彼が望んだ田舎での心休まる生活はありませんでした。正式に結婚していない二人、特に歌手であるジュゼピーナに対する村人たちの眼差しは冷たいものでした。当時は女優や歌手を高級娼婦と同じに見る偏見が残っており、二人は村八分のような扱いを受けます。結局故郷から逃れ、パリで暮らすことを選びます。

 そんな折、パリで二人はベストセラーをもとにした芝居を観劇します。それが「椿姫」です。高級娼婦のヴィオレッタはパリ社交界の華。そんな彼女に首ったけの青年アルフレード。彼の純真さに心撃たれ、彼女は虚飾に満ちたパリを捨て、田舎での二人きりの生活を選びます。しかし、うぶな息子が娼婦に騙されていると信じる父親が別れを迫ります。父親はヴィオレッタに会って彼女の真心を理解しますが、アルフレードの妹の縁談に差し支えがあるので別れてほしいと懇願。悩んだ末にヴィオレッタはそれを受け入れるのです。その後、彼女は病いに蝕まれ、死の床でアルフレードとの再会だけを支えに命を永らえています。やっと恋人とその父親が現れますが時遅く、皆が見守る中ヴィオレッタは息を引き取るのでした。

 まるでジュゼピーナとヴェルディの物語のようです。この芝居を見たヴェルディは、1年も満たない1853年にオペラ化し初演します。今ではヴェルディの代表作の一つとなりました。

 1859年、ヴェルディとジュゼピーナは正式に結婚し、今は「音楽家のための憩いの家」*の礼拝堂に二人並んで埋葬されています。


*音楽家のための憩いの家:ヴェルディが私財をなげうって設立した引退した音楽家のための老人ホーム。現在でも50名以上の音楽家が暮らしている。


ジュゼッペ・ヴェルディ Giuseppe Verdi(1813-1901)

19世紀イタリアを代表する作曲家。「歌劇王」と呼ばれる。代表作は、「リゴレット」、「椿姫」(1853年)、「運命の力」(62年)、「アイーダ」「オテロ」(87年)など。


イラスト:遠藤裕喜奈



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