知れば、知るほど、好きになる「コンサートホールの形」、「尺八」
音楽の小箱
コンサートホールの形
コンサートホールの歴史は比較的新しく、18世紀後半から始まり、大規模なオーケストラが登場した19世紀後半には今日まで「理想」とされるウィーン楽友協会大ホール(1870年)が建設されました。これらは「シューボックス(靴の箱)型」という長方形の短辺の一方に舞台を置き、客席を舞台とほぼ平行に並べた直方体の形状が特徴です。公立施設として日本初の音楽専用ホール(1954年開館)である県立音楽堂もシューボックス型です。
ホールの良い響きを作る要素に「残響時間」が知られていますが、舞台からの直接音のすぐあとに発生する側壁からの「反射音(初期反射音)」は美しい響きには欠かせません。シューボックス型では、この反射音を豊かに客席全体に届けることがきますが、左右幅を広くできないために客席数が限られます。
これに対し、1963年に完成したベルリン・フィルハーモニーホールをはじめ、80年代後半からは日本でも建設されたコンサートホールに「ヴィンヤード(ぶどうの段々畑)型」があります(「ワインヤード型」といえばピンと来る方もいるかもしれません)。舞台を取り巻くように客席を配置し、2000席以上の収容が可能です。ただし、豊かな反射音を得るためには、段差を設けた複数のブロックに分けて、配置された客席の壁面を利用したり、天井の反射板を設置するなど、複雑な音響設計が必要となってきます。
近年、コンピュータによって音量や音響分布の質まで予測可能になり、斬新な形状のホールが誕生しています。
昨年ベルリンに完成したピエール・ブーレーズ・ザールは、四角いホールの中心に舞台を置き、その回りに客席を楕円形状に配置し、シューボックス型の形状とヴィンヤード型の客席の両者を生かした形です。
これからも様々な形のコンサートホールがつくられ、人々を感動に誘ってくれることでしょう。
参考文献: 永田音響設計News 98-6号1998年、 News 17-04(通巻352号)2017年
Photo: ベルリン・フィルハーモニーホール ©Peter Adamik
楽器ミュージアム
尺八
江戸時代、禅宗の一派、普化宗の虚無僧と呼ばれる僧たちは、袈裟をかけ深編笠をかぶり「尺八」を吹いて、諸国を行脚しました。
虚無僧にとって尺八は楽器ではなく法器。尺八を奏することは、座禅に代わる修行であり、座禅で息を整えるように、管に息を吹き込む内省的なものだったそうです。明治時代になり、普化宗が廃宗となると尺八は一般に広まり、三味線や箏との合奏や民謡の伴奏などで盛んに演奏されるようになりました。
尺八は、真竹を切り出したもので、標準の長さは名前の由来である1尺8寸(約54.5cm)。指孔は表に四つ、裏に一つで、指の開閉で五つの音を出し*、さらに指孔を半開きにしたり、吹き込む息の強さや角度を変えて他の音を出します。息を吹き込む歌口が他の管楽器より大きいのが尺八の特徴の一つで、息が自然にもれるくらいに唇を薄く開き、管の中と外に分かれるように息を吹きます。
歌口への息の向きや強弱の変化で風が吹き抜けるような音を出す「ムライキ」、二つの指孔を交互に開閉する指づかいでふるえるような表現をつくる「コロコロ」「カラカラ」、首を振って一音の高さ、強弱、音質等をかえる「ユリ」など、尺八独特の奏法を耳にしたことのある方も多いのではないでしょうか。尺八演奏家、藤原道山氏は、この「息・指・首の三つの技のコンビネーションで音楽をつくりあげていく」と語っています。
「首振り三年コロ八年」といわれるほど、人の胸にしみ入る演奏ができるまでに鍛錬を要する尺八ですが、繊細なニュアンスを豊かに表現するその奥深い魅力で、今日では海外にもたくさんの演奏者がいるほど広く浸透し、邦楽はもちろんジャズやポップス、現代音楽など、ジャンルを越えて活躍する楽器になっています。
*長さが1尺8寸の場合はレ・ファ・ソ・ラ・ドの5音
標準の1尺8寸の他、高い音が出る1尺程度の短いものから音の低い3尺近いものまで様々な長さがあります
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