山本理顕の 街は舞台だ「小学校」

第12回 
コミュニティの中心に小学校がある。

小学校 (横浜市)

本町小学校、写真左が増築された校舎


 小学校は地域社会の中心である。運動会には住民たちが家族で集い、親子何代にもわたり同じ校舎で過ごし、地域共通の歴史を育んできた。それは近代化の一つの理念でもあったのだ。「近隣住区*」理論である。20世紀の都市計画において、小学校区を一つのコミュニティ単位として考え、そこに住宅や公共施設を計画的に配置することが近隣住区の基本であった。

 いま多くの小学校が周辺環境の激変に苦しめられている。経済的利潤を最優先する都市開発のために、近隣住区というコミュニティ理論が成り立たなくなっているからである。横浜市中区にある本町小学校は1905年設立の伝統校で、1983年に竣工したオープンスクール*の理念を先取りした先進学校でもある。しかし、その後近隣のみなとみらい21地区に高層マンションが林立し、想定以上に人口が増加し、教室数が足りなくなってきた。新校舎を増築し、オープンスクールの理念も見直しを余儀なくされる。振り回されるのは先生たちである。2020年には新市庁舎が近くにできる。高層マンションもできる。最早、限界なのである。ということで新たに「みなとみらい本町小学校」が本年4月に開校する。10年限定だそうだ。10年? 10年で自分の学校がなくなったら子どもたちはどう思うだろう。未来に対する何の理念もなく、ディベロッパーに高層マンションの建設を許可する。人口が増えちゃった。じゃあ学校をつくらなくちゃ。

 コミュニティという関係が希薄になってしまっているのだ。コミュニティとは住人同士の信頼関係のことである。その中心に小学校がある。それが希薄になってしまった地域に対して、学校は子どもたちを護るために何ができるのか。地域から自らを閉ざすような学校になってしまうのだとしたらそれは違うと思う。小学校は子どもたちが6年間共同生活する場所であると同時に、近隣の人びとと共に、コミュニティをつくる役割を担っているのである。学校という敷地の内側だけではなくて地域社会全体との関係を設計する必要があるのだと思う。学校は子どもたち、そして地域社会の人びとの記憶が刻まれる場所なのである。


*近隣住区:アメリカの社会・教育運動家で地域計画研究者のC.A.ペリーによって1924年に提唱された住居地域の構成単位。小学校を中心にした人口8000~1万人程度の住宅地域。市街地を計画的に小分割して、コミュニティの再生を図る。

*オープンスクール:当時都立大学の教授だった建築計画学者・長倉康彦の考え方で、地域に開かれた学校という意味。


企画・監修:山本理顕(建築家)

1945年生まれ。71年、東京藝術大学大学院美術研究科建築専攻修了。東京大学生産技術研究所原研究室生。73年、株式会社山本理顕設計工場を設立。2007年、横浜国立大学大学院教授に就任(〜11年)。17年〜現在、横浜国立大学大学院客員教授。

©Jake Waltersm



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