愛と哀しみの傑作(マスターピース)「ナイチンゲール(小夜啼鳥)」

ハンス・クリスチャン・アンデルセン

「ナイチンゲール(小夜啼鳥)」

 グリム兄弟と並ぶ童話作家の巨匠、ハンス・クリスチャン・アンデルセン。1805年、デンマークの貧しい靴職人の子として生まれました。「人魚姫」「裸の王様」「みにくいアヒルの子」「マッチ売りの少女」など、彼の童話を知らない人はいないでしょう。

 1843年、38歳のアンデルセンは、デンマークを訪れた若いオペラ歌手と再会します。スウェーデンのナイチンゲールと呼ばれたジェニー・リンド嬢です。彼女とは3年前に会っていますが、23歳の誕生日を間近に控えたリンド嬢は美しいプリマドンナに変身していました。コペンハーゲンでの公演は全市民を虜にします。リンド嬢は歌声だけでなく、美しい心の持ち主でした。休みのないスケジュールの合間をぬって子どもたちのための慈善興行を行い、収益を全て寄付しています。

 彼女の滞在中、アンデルセンは毎日リンド嬢を訪ねます。彼は日記に書いています「僕は恋している」「求婚しようかと考えた。目眩がした」。帰国前には手紙を手渡し、その日の日記に「彼女はわかってくれるだろう。愛している」と書いています。しかし、彼女からの返事はいくら待っても届きませんでした。

 翌年、アンデルセンは『新童話集』を発表します。「ナイチンゲール」という、リンド嬢の愛称をタイトルにした作品が収録されています。死の床に臥す皇帝がナイチンゲールの美しい鳴き声で生気を取り戻す、という物語です。アンデルセンはリンド嬢に『新童話集』を送ります。礼状が届きますが、アンデルセンをお兄様と呼びかけるものでした。

 1852年、ジェニー・リンド嬢は作曲家・指揮者・ピアニストのオットー・ゴルトシュミットと結婚します。

 同年、アンデルセンは、幼なじみの歌姫に恋する若い靴職人が修行の旅の果てに荒野で彼女の夢を見ながら死んでいく「柳の木の下で」を発表しています。


ハンス・クリスチャン・アンデルセン

Hans Christian Andersen(1805〜75)

デンマークの童話作家、詩人。150余編の童話を書いた。アンデルセンの童話は、グリム兄弟のような昔話と違い、創作作品が多い。


イラスト:遠藤裕喜奈

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