知れば、知るほど、好きになる「能舞台の不思議」「ティンパニ」
演劇の小箱
能舞台の不思議
初めて能楽堂へ行き、ロビーから「見所(けんじょ)」と呼ばれる客席に足を踏み入れた時、不思議に思うことがあるはず。室内なのに、能舞台に屋根が架かっているからだ。まさに「屋上屋(おくじょうおく)」という言葉、そのものだ。
なぜ、このようになっているかといえば、能舞台は、明治の中期、西洋式の劇場建築が入ってくるまでは、独立した建物として野外に建っていたからだ。
舞台の回りには、50センチほどの幅で白い小石が敷き詰められた「白洲(しらす)」と呼ばれる空間がある。これも屋外に建っていた時の名残り。降り注ぐ日の光を反射させ、能面を下から照らす効果があるとされた。正面には、「キザハシ」という短い階段が付いている。これは、終わった後、能を取り仕切る役人が、主人の使者として、役者に褒美を渡す際などに使われた。しかし、今では、褒美を渡す人もいないから使われなくなっている。
使われないのに残っている所が、もう一つある。向って右手の舞台奥にある「貴人口(きにんぐち)」。文字通り、かつては高貴な人が舞台に上がる時などに使ったとされる。
能舞台を象徴するのが、正面奥の羽目板に描かれている松。江戸時代までは、公式の能舞台に描かれるのは、松だけと決まっていた。これは、能の原点といえる曲「翁」が、神事芸能であることに由来する。かつて日本では、松に神が降臨すると考えられていた。能舞台が、現在のような形になった時、松を描くようになったが、それでは神に対して、お尻を向けて演じることになる。それは失礼だと、あくまでも鏡に映した松だとして、その方便として「鏡板」と名付けられた。
能舞台は、神聖な場。そのため清浄とされる白の足袋を履くのが倣い(ならい)。用があってスタッフが上がる時もだ。
能舞台には、700年に及ぶ能の歴史が詰まっている。
文・中村雅之(横浜能楽堂館長)
写真提供:横浜能楽堂本舞台
楽器ミュージアム
ティンパニ
ティンパニはクラシック音楽で最も重要な打楽器。大釜のような金属製の半球の上に皮を張り、脚で固定して、2本のバチ(マレット)で叩きます。オーケストラの一番奥に配置され、リズムと低音(ベース)を担って曲構成の柱を担うため、オーケストラ奏者は前方の指揮者を目で追うと同時に後方のティンパニを聴きとることがとても大切になります。
え? 打楽器がベースを担う?! 実はこの楽器、太鼓(ドラム)と違って音の高さ(ピッチ)を出すことができるのです。打楽器は皮を叩いた振動から音を出しますが、筒の上下に皮を張る太鼓では、この振動が上下の皮に反射し合って複雑に変化するためピッチが定まりません。しかしティンパニでは釜の中に空気を閉じ込められるので、規則的な振動となりピッチがはっきりします。
ティンパニの先祖は中近東で馬の両脇に吊るした軍楽太鼓。ヨーロッパに伝えられ17世紀にはオーケストラの仲間入りをしました。当時から皮を固定するネジで張り方を調整してピッチを調整できた優れもののティンパニを多くの作曲家たちが重用しました。とはいえ演奏しながらねじを回すのは至難の業。そこで、19~20世紀にはハンドルやペダルで瞬時にピッチを変えるしくみが考案されました。
曲にもよりますが、今日では通常、大きさの異なるティンパニを4台並べて演奏します。ちなみにドイツでは伝統的に、奏者の右側に低い音が出る大きいサイズを置き左に向かってより小さく高い音の出る順にティンパニを配置しますが、アメリカや日本ではその反対で左側ほど低い音になる順で配置します。オーケストラの演奏会の際は、ぜひティンパニの配置にもご注目を。
*標準タイプは、皮の直径が32インチ、29インチ、26インチ、23インチ、20インチの5サイズ。それぞれほぼ1オクターブ程度の音域を持つ
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