Creative Neighborhoods 街と住まい「南永田団地(横浜市南区)」

第1回
団地を再読するー住民によるふるさと化への挑戦


 2年間にわたりお届けした「山本理顕の街は舞台だ」にかわり、今号からは山本先生が教鞭を執られた横浜国立大学都市科学部建築学科の先生方による連載となります。


 国交省の調査によると、いわゆる団地型の住宅は195万戸に達するという。我が国の現在の平均世帯人員はだいたい2.5人だから、単純計算で500万人近い人がいわゆる「団地」で暮らしていることになる。団地は一般的には駅から少し離れた郊外に建てられることが多く、このため初期団地の多くは少子高齢化が進み、若年層の流出、単身高齢者の増加、空き家の増加などの課題に直面している。

 横浜市南区に、市浦都市開発建築コンサルタンツ(前・市浦建築設計事務所)が基本計画を担当した南永田団地(UR都市機構)がある。1974年から入居が始まった賃貸・分譲あわせて約2400戸の団地であるが、築40年以上が経過し、住民の約4割が65歳以上の高齢者となり、中心商店街の空き店舗化も進んでいる。1970年代は、平坦地の団地造成がおおよそやり尽くされた時代。残された選択は丘陵地を切り崩すほかなかった。しかし、市浦都市開発建築コンサルタンツでは、この厳しい条件に対してあえて計画地の外に土砂を出さないという方針を定め、最小限の地盤造成と9階~14階建ての高層住棟を組み合わせた新しい団地モデルを構想した。この結果生まれた地形と高層住棟の組み合わせは、住棟の圧迫感を軽減し、広い空を獲得する効果をもたらした。また、住棟間をつなぐ中間階の空中ブリッジは、敷地の高低差を解消しながら人の流れを中心商店街とその周辺広場に接続し、現在でも十分に通用するバリアフリー経路を生み出している。

 今、南永田団地ではこの空間を活かしながら、「つながり祭」とよばれる多世代交流の取り組みと、空き店舗を活用した地域の縁側的居場所づくりが住民を主体としてはじまっている。これは、団地に住み続けたいという声と高齢化への危機感を発端として、区役所や民間コンサルタントの支援などを受けながら住民有志によって取り組まれはじめたものである。活動を継続していくために、NPO法人化などの工夫が模索されている。

 南永田団地が持つ豊かな空間が、住民たちの地域愛着、つまりふるさと意識をはぐくみ、次世代に向けた主体的活動へと結びついている。それぞれの団地が持つ、独自の魅力を再発見し活かすことは、次世代に向けた「事業」を残すことにつながるのである。重要なことは、この事業が団地住民だけではなく周辺地域のさまざまな主体や世代、とりわけ次世代の主役となる子どもたちや若者が関わるものとして計画されていることである。


藤岡泰寛

横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院・准教授(博士[工学])。1973年生まれ。専門は建築計画・住居計画。99年、京都大学大学院工学研究科環境地球工学専攻修了。横浜国立大学工学部建設学科・助手(〜05)、同・講師(〜10)を経て現職。茅ヶ崎市浜見平地区まちづくり協議会委員(〜15)、横浜市バリアフリー検討協議会保土ケ谷区部会長(17〜)。


Photo(上から)

地形に沿って配置することで高層住棟の圧迫感が軽減されている

中央広場につながるアプローチ

等高線に沿ったアプローチと空中ブリッジの考え方 

「つながり祭」は多世代交流の場に  

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