Creative Neighborhoods 街と住まい「西区の木造密集市街地 」

第 2 回
斜面地に住まうー横浜の密集市街地にみる地形を活かした空間と暮らしの未来

 野毛山公園を越えた高台にある横浜の代表的な西区の木造密集市街地(以下、木密)。小さな木造2階建てや3階建ての住宅がところ狭しと斜面に沿って立ち並ぶ。横浜の都心から直線距離で2km強と立地条件もよく、海抜41mという丘陵地からのみなとみらいを臨む眺望は美しい。木密としては見晴らしが良い上、風通しも良い住環境である。この西区には、地形が複雑に入り組んだ結果生まれた隙間や路地を生活空間としてうまく使いこなす、数々の興味深い空間がある。住民たちの知恵と創造力による、ユーモアとセンスにあふれたヒューマンなスケールの空間が地域に馴染んでいる。

 筆者は、横浜国立大学都市イノベーション学府Y|GSAの大学院生たちと2016年から2年間かけて西区の木密における住環境の調査を行った。その調査から、前述の地形をいかした木密地域らしい空間の使い方の発見と同時に、さまざまな課題がみえてきた。未接道のために建て替えができない住宅、地域の高齢化と共に起こる住宅の老朽化、空き家の増加である。また火災による延焼、土砂災害の危険性も大きな課題である。では、その課題を解決し西区の未来を考える時、どのような町の将来像を描き、更新していくのが良いのだろうか。

 その方法のひとつとしてY|GSAの若手建築家二人を中心に「横浜西区のアマルフィ*」と私たちが名付ける、眺望の素晴らしい斜面地の一画を仮の敷地として想定し、居住モデルを考えてみた。居住者が組合をつくる「コーポラティブ」の仕組みを使って、数世帯の土地をひとつに統合し、接道させて共同建て替えを行うという提案である。賃貸住戸も含む集合住宅の提案であり、不動産としては価値が上がる想定だ。一番の特徴は、眺望を確保し、西区らしい路地的な空間を取り込むことで、住人同士がさまざまな形で路地空間を共有しながら、コミュニティの新たな関係性を築いていく空間設計である。

 今、日本の木造密集市街地の更新を考える上では、他人任せの大型の開発ではなく、住民たち自身が小さな単位で町を更新し、運営していくことが大切ではないだろうか。地域の歴史・文化や空間的特性を継承する空間の設計と使い方は、その地域らしさを反映した「クリエイティブ・ネイバーフッド=創造的な地域社会」となり、住人たちの愛着と誇りを生むだろう。


*アマルフィ:イタリアのナポリに近いカンパニア州に位置し、海岸に面した複雑な地形をもつ丘陵地に立つ都市。中世の早い時期から人々が住み始めた、通風採光に恵まれ眺望を享受できる優れた立地の住宅地。ユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録される高級リゾート地。


寺田真理子

横浜国立大学都市イノベーション研究院准教授。キュレーター。1990年日本女子大学家政学部住居学科卒業。90-99年鹿島出版会SD編集部。99-2001年「Towards Totalscape」展(オランダ建築博物館)、02年「ルイス・バラガン」展(東京都現代美術館)のキュレーション、企画を担当。07年〜横浜国立大学大学院 “Y-GSA” 特任講師。18年〜現職。主な共著に『Creative Neighborhoods—住環境が社会を変える』(誠文堂新光社、2017年)


Photo(上から)

Y-GSAが提案する西区の居住モデルの路地的空間での活動イメージ (設計:篠原明理、連 勇太朗)

丘陵地・横浜西区の木造密集市街地

斜面地を生かした居住モデルのイメージ

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