愛と哀しみの傑作(マスターピース)「荒馬と女」

アーサー・ミラー

「荒馬と女」

 1956年6月29日、アメリカを代表する劇作家アーサー・ミラーは映画女優のマリリン・モンローと結婚します。「セールスマンの死」でピュリッツァー賞、トニー賞を受賞した現代演劇の旗手とハリウッドのセックス・シンボルとの結婚は世界中を驚かせました。

 孤児院や里親のもとで育ったモンローは完璧な家庭を求め、ミラーとの子供を持つことを夢見ます。しかし、子宮外妊娠や流産など、立て続けに不幸に襲われるのです。モンローは以前から常用していた酒と睡眠薬を乱用するようになり、事故とも自殺未遂ともわからない過剰摂取を繰り返します。ミラーは自らの仕事そっちのけで、彼女の世話をすることとなるのです。

 そんな時期に発表された数少ない作品の一つが、1957年の小説「The Misfits 」(不適合者)」です。これをミラーはモンロー主演の映画としてシナリオ化します。ジョン・ヒューストン監督「荒馬と女」です。離婚したばかりの東部女ロズリンは、ネバダ州リノで、時代に取り残されたカウボーイのゲイと知り合い一緒に暮らすこととなります。二人はゲイの仲間と一緒に野生馬狩りに出掛けるのですが、ロザリンはかつては乗馬用に売られていた馬たちが今ではドッグフードの材料として売られていることを知ります。しかしゲイは生き方を変えることができず、それがもとで別れることになる物語です。

 ミラーはゲイの口を借りて語ります「みんな誰かを犠牲にして生きている」。「何の悪気もなく自然に始まったことが、いつの間にか悪いことになっている」。ラストシーンでロズリン=モンローは問います「暗闇の中でどうやって道を探すの?」。ゲイは答えます「あの大きな星を追うのさ。その下に道がある。それが正しい家に連れて行ってくれるのさ」。

 1961年1月20日にミラーとモンローは離婚します。演劇界と映画界の二大スターは別々の道を選んだのです。

 同年2月1日に「荒馬と女」は公開され、翌1962年8月5日にモンローは睡眠薬の過剰摂取で亡くなります。ミラーとの共同作品が彼女の遺作となりました。


アーサー・ミラー Arthur Miller(1915〜2005)

アメリカ合衆国の劇作家。代表作は「セールスマンの死」、「民衆の敵」、「るつぼ」など。演劇・映画・ラジオドラマの脚本、小説、評論で活躍。2001年に高松宮殿下記念世界文化受賞。


イラスト:遠藤裕喜奈

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