知れば、知るほど、好きになる「トウシューズ」「ヴィオラ」

演劇の小箱

トウシューズ


 トウシューズはバレエの象徴です。バレエ、特にクラシック・バレエは、つま先で立って踊るためにトウシューズを履かなければ、テクニックの面でも表現の面でも成立しません。

 バレエが発展した19世紀前半のヨーロッパはロマン主義の時代で、幻想的、超自然的、神秘的なものへの憧れが顕著となりました。バレエでは、この世のものでない妖精や精霊を演じるために、ポアント(つま先で立つこと)技法が生まれ、トウシューズの開発が進みました。バレリーナは、トウシューズを履き薄いチュールを重ねた膝丈くらいの白いチュチュを身につけて、「ラ・シルフィード」や「ジゼル」といった作品でふわりふわりと浮遊する妖精を踊ったのです。現実に妖精がいるかのように見える舞台に、観客は熱狂しました。

 トウシューズが開発されポアント・テクニックが発展することによって、回転やポーズ、ポーズを取ることによるバランス、体全体のラインといったバレエ独特の美しさがどんどん進化していきました。こうしてどの瞬間を切り取っても美しいバレエ芸術は、トウシューズなくしてはあり得なくなったのです。

 トウシューズにはリボンが縫い付けられており、このリボンを足首に巻きつけて履きます。ダンサーは必ずこのリボンを自分でシューズに縫い付け、ほかにもこまごまと自分の好みに合わせてカスタマイズします。プロのダンサーはシューズをオーダーしている人も多く、それをさらに足にフィットするよう工夫しています。

 トウシューズは習い始めてすぐに履きこなせるものではありません。幼い頃から基本の練習を積み、体幹を鍛え筋肉をつけ骨の成長も待ってようやく履くことが許されます。小さなバレエ少女たちは、まずはトウシューズが履けるようになることが目標、その日を夢見てレッスンに励んでいるのです。

文・結城美穂子



楽器ミュージアム

ヴィオラ

 オーケストラの前方に、半円を描いてずらっと並ぶ弦楽器群。以前、本コーナーでご紹介したヴァイオリンとチェロの間にある、ヴァイオリンそっくりですがひとまわり大きな楽器。これがヴィオラです。

 4本の弦を弓で擦って音を出すという構造はヴァイオリンと同じですが、サイズが大きい分、ヴァイオリンよりも低い音を出します。4本の弦はヴァイオリンの弦よりそれぞれ5度低い「ド・ソ・レ・ラ」。これは、チェロの弦と同じ音なのですが、どれもチェロより1オクターヴ上の音になります。このヴィオラの音域は、人間の声にもっとも近いのだそうです。また、ヴィオラの弓はヴァイオリンより短く、重くなっています。

 オーケストラの中でのヴィオラの役割は、華麗なヴァイオリンと深く暖かな響きのチェロとの間で合奏を支えハーモニーを豊かにする名脇役といったところでしょうか。

 ヴィオラは、ヴァイオリンと同じく16世紀前半の北イタリアで誕生しました。以後、ヴァイオリンと同様に、ボディを補強し駒や指板の位置を高くして弦の張力を強め、弦を羊の腸(ガット)からスチールに変えて、より大きく均一な音を出すための改良が進められました。奏法がよく似ているので、ヴィオラとヴァイオリン両方を演奏する音楽家が数多くいます。

 ヴィオラは、皆ほぼ同じサイズのヴァイオリンと違って楽器ごとにかなりばらつきがあります。小型なものはヴァイオリンのような響きがしますし、大きめだとチェロのような音を出します。ヴィオラをみかけたら、その大きさと響きにぜひご注目を。

長年、脇役に甘んじていたヴィオラですが、とりわけ20世紀初頭からヴィオラの名手が次々に登場し、ヴィオラ独奏のための作品も作曲されるようになっています

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