嘉目真木子 (ソプラノ)

様々なアーティストが競演するガラコンサートは
刺激の多いフィギュアスケートの大会のよう。
緊張感を持って舞台に上がる瞬間を存分に味わいたいと思います。

ファンタスティック・ガラコンサート 2018

神奈川県民ホール


今年で13回目を迎える、神奈川県民ホール年末恒例の「ファンタスティック・ガラコンサート」。日本を代表する音楽家とバレエダンサーが一堂に会し、楽しくも贅沢な時間を過ごすことができると大人気です。今年、このガラコンサートに初登場するのがソプラノの嘉目真木子。「これからの日本のオペラ界を背負って立つプリマ」として期待を一身に受ける歌姫の「歌にかける思い」とは。


「ガラコンサートは
フィギュアスケート大会のようなもの」

―バレエと音楽という異なるジャンルのアーティストが集まる「ファンタスティック・ガラコンサート」について、どんな思いで臨まれるのか、まずは意気込みをお聞かせください。

 実は、これまでにあまりガラコンサートに出演したことがなかったので、今回のお話をいただいてすごく嬉しかったんです。バレエにしろ、オーケストラ作品にしろ、声楽とはまた違った魅力があると思うので、良い刺激をいただけるのではないかとワクワクしています。

 一曲一曲違うアーティストが登場するガラコンサートは、オペラとはまた違う緊張感がありますね。前に登場した方が作った雰囲気の中で舞台に出て行って自分の世界を作る……ちょうど、フィギュアスケートの大会みたいなイメージです。意志の強さも必要でしょうし、その場でパッと気持ちを切り替える瞬発力も重要かなと思います。自分自身が緊張感を持って舞台に上がる瞬間というのが、実は演奏家にとっての大きな醍醐味と言えるので、今回はその時間を存分に味わいたいです。

―プログラムは、マスカーニの「アヴェ・マリア」と、レハールのオペレッタ『メリー・ウィドウ』から「ヴィリアの歌」の二曲が予定されています。

 この二曲は、指揮の松尾葉子さんに選んでいただきました。私自身、落ち着いたしっとりした曲が好きで、自分の声にもあっていると思っているので、この二曲を選んでくださったのを本当に嬉しく思っています。

 オペレッタの音楽というのはとても微妙なバランスが必要です。軽妙さは重要だけれども軽いだけではない、なんともいえない切なさがあって、それが聴く人の心を掴むのです。今回歌わせていただく「ヴィリアの歌」も、そういう意味ではまさにオペレッタらしいナンバーです。

—ガラコンサートはオペラと違ってオーケストラが舞台上で演奏しますが、歌う時に何か違いはあるのでしょうか。

 私は、オーケストラが後ろにいてくれるのはすごく心強いです。オーケストラから出てくるエネルギーを受け取って、それをお客様に届けるという感覚で、全員で一緒にひとつの音楽を作っているという一体感がありますね。オペラの場合はオーケストラはピットの中にいて、舞台とは離れていますから。

 もちろん、歌い手からはオーケストラは見えないんですが、逆に背中が敏感になって集中力が増す気がします。そういうところも楽しくて、私は大好きです。

―「ファンタスティック・ガラコンサート」でずっと司会を務められているバリトンの宮本益光さんとはオペラでも共演していらっしゃいますね。

 とても引き出しの多い方で、共演するたびにたくさん勉強をさせていただいています。また昨年、宮本さんが構成・演出・ナレーションを担当された黒い薔薇歌劇団の『魔笛』に出演したのですが、その時宮本さんのナレーションから、「演じる気持ち」というのを強く感じました。歌だけでなく、あらゆる「表現」から伝わってくるその思いに、歌い手として人に何かを「伝える」ということの重みを感じました。

『魔笛』から得た、歌い手としての財産

―『魔笛』のパミーナは、これまでに何度も演じていらっしゃる、いわば嘉目さんの「当たり役」ともいうべき役ですね。

 2010年に故・実相寺昭雄さん演出の『魔笛』でパミーナを歌ったのが、本格的なオペラデビューだったのですが、その時から、役に対する考え方や演奏のアプローチはどんどん変化してきています。同じ役でも演じる側の年齢やキャリアによって変化する、たいへん幅のある役だと思います。

―2017年には、神奈川県民ホールで勅使川原三郎演出の『魔笛』にも出演されました。

 そのプロダクションでは、「演出によって表現がこれほど変化するのか」ということに大きな衝撃を受けました。それまではずっと「表現を外に出す」ということを要求されてきたのですが、勅使川原さんは逆に「外に出しすぎるな」とおっしゃったんです。最初はとても戸惑いましたが、最終的には、「表に見えないけれど中が燃えている状態」を表現するという新しい感覚を発見することができました。

 オペラの舞台で歌い手は、「役になりきって熱く表現しつつも、頭のどこかで自分を俯瞰していなければならない」とよくいわれます。勅使川原さんの『魔笛』では、まさにその状況を体感できた。これは、オペラ歌手として今後大きな財産になると思っています。


歌手・嘉目真木子が目指すもの

―これまで、歌手として着実にステップアップされてきた嘉目さんですが、ご自身のキャリアをどう捉えていらっしゃいますか。

 歌手としては、常に「無理をしない」ということを心がけてきました。今まで色々な役を歌わせていただきましたが、そうした役たちが、自分に無理を強いてきたことはありません。もちろん、その役を歌うということは常に挑戦ですが、終わってみると役から学んだことは多く、自分でもステップを踏んだという実感が持てています。

―では、今後の目標はどこにあるのでしょうか。

 声楽を学び始めた時から、日本ではオペラがほんの一部の人の趣味と考えられているのが残念だな、と感じていました。オペラの魅力を一人でも多くの人に届けたい、これまでにオペラに触れたことのない方にも知っていただきたいと思ってきたのですが、この十年かけて、それを実現するにはまず自分自身が一流にならなければいけない、ということを学びました。ですから、今よりも来年、来年よりも再来年、と成長していくことが大切だと思っています。

 そうした自分自身の成長と並行して、若い人たちにオペラを観てもらうための具体的な発信をする、ということも考えていきたい。オペラ・ファンだけでなく色々な方が聴きにいらっしゃる「ファンタスティック・ガラコンサート」のような公演に出演させていただくことは、そのための大きなステップになると確信しています。

―嘉目さんの「ファンタスティック・ガラコンサート」にかける熱い思いが伝わってきました。

 年末というのは、新年に向けて気持ちがはやる時期です。そういうテンションが上がっていく時期に、ゴージャスなコンサートでさらに気分を高めて新年を迎えていただけたら嬉しいです。


my hall myself

私にとっての神奈川県民ホール

 神奈川県民ホールには、これまでに、2015年の『金閣寺』(田尾下哲演出)と17年の『魔笛』(勅使川原三郎演出)の二回、出演させていただいています。実際に舞台に立って強く感じたのは、空間の広がりでした。ホールというのは閉じられた空間ですが、県民ホールの持つ「広がり」は、そうした「閉じられている」という感覚から解放してくれ、実に気持ちよく歌うことができます。また、海に近く、おしゃれで特別なイメージのある横浜の街の風景に溶け込んでいるのも素敵なところ。「歴史と気品のあるホール」である神奈川県民ホールのリニューアルした舞台に立てるのが、今から楽しみです。


取材・文:室田尚子 撮影:末武和人


嘉目真木子 Makiko Yoshime

国立音楽大学卒業、同大学院修了。二期会オペラ研修所修了後、渡伊。二期会「魔笛」パミーナ、「フィガロの結婚」スザンナ、神奈川県民ホール「金閣寺」有為子ほか、A.バッティストーニ指揮「道化師」ネッダ等を演じ、好評を博す。本年はフランス国立ラン歌劇場「金閣寺」女、二期会「魔弾の射手」アガーテ等出演。シャネル・ピグマリオン・デイズ2017参加アーティスト。二期会会員。


神奈川県民ホール 年末年越しスペシャル

「ファンタスティック・ガラコンサート 2018」

2018年12月29日(土) 15:00 神奈川県民ホール 〈大ホール〉

出演:松尾葉子(指揮) 宮本益光(司会・バリトン) 嘉目真木子(ソプラノ) 澤原行正(テノール) 上野水香、柄本 弾(バレエ[東京バレエ団]) 吉見友貴(ピアノ)  石田泰尚(ヴァイオリン)  神奈川フィルハーモニー管弦楽団

[オーケストラ] 

ムソルグスキー(ラヴェル編曲):「展覧会の絵」より プロムナード、キエフの大門

プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番より 第1楽章

ドビュッシー:小組曲より Ⅳ.バレエ/マスネ:タイスの瞑想曲 他

[オペラ] 

マスカーニ:アヴェ・マリア/レハール:「メリー・ウィドウ」より ヴィリアの歌

ビゼー:「カルメン」より 花の歌/グノー:「ファウスト」より 故郷を離れる前に 他

[バレエ] チャイコフスキー:「白鳥の湖」より アダージョ 他

全席指定 S 7000円 Sペア 13000円 A 5000円 B 4000円 C 3000円 

学生(24歳以下・枚数限定)2000円

kanagawa ARTS PRESS

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