愛と哀しみの傑作(マスターピース)ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ 「ファウスト」
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
「ファウスト」
1770年秋、シュトラースブルク大学の法学生だったゲーテは友人に連れられ、30キロほど離れたゼーゼンハイムを訪れ、村の牧師の娘フリーデリーケ・ブリーオン嬢と出会います。21歳の文学青年と18歳の少女との恋愛から「5月の歌」や「野ばら」などの傑作が生まれ、この時、詩人ゲーテが誕生するのです。
出会いからほぼ1年後の71年8月、ゲーテはフリーデリーケのもとから黙って去っていきます。学位をとって、フランクフルトへ帰郷するのです。自分勝手なエゴから、純真な乙女を傷つけたゲーテ。実は、世界中で愛唱される「野ばら」は、若い男が野薔薇を気ままに折ってしまう歌なのです。
童は折った 野なかの薔薇
折られてあわれ 野なかの薔薇
ゲーテはフリーデリーケ嬢への罪悪感に生涯苦しめられます。ゲーテが60年かけて完成させたドイツ文学の傑作「ファウスト」のヒロイン、グレートヒェンにも彼女の面影が反映しています。
悪魔メフィストと契約したファウストは、素朴な街娘グレートヒェンと恋をし、子どもを身籠らせます。しかし、彼に捨てられた彼女は生まれたばかりの子どもを水に沈め、赤子殺しの罪で死刑に処されてしまいます。
さまざまな冒険の後、ついにファウストにも死が訪れます。メフィストがファウストの魂を奪い取ろうとするその時、天使の一群が現れ悪魔を焼き払い、ファウストを天上へと連れて行くのです。その中にかつてグレートヒェンと呼ばれた霊がいるのでした。ゲーテは「ファウスト」に全精力を注ぎ、完成の翌年1832年3月22日に生涯を閉じます。悲劇「ファウスト」は「永遠なる女性の魂が我らをより高きへと引き上げる」という言葉で締めくくられています。なお、フリーデリーケは、1813年に61歳で世を去るまで生涯を独身で過ごしました。
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
Johann Wolfgang von Goethe(1749〜1832)
ドイツの詩人、劇作家、小説家。代表作は小説「若きウェルテルの悩み」、「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」など。自然科学者として「色彩論」、「植物変態論」など。政治家としてヴァイマル公国の宮廷顧問なども務めた。
イラスト:遠藤裕喜奈
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