Creative Neighborhoods 街と住まい 「みちからはじまる まちづくり」

第9回

横浜のみちを考える

「みちからはじまるまちづくり」

オープンカフェのある「日本大通り」


「みち」は、誰もが一日一度は利用する、最も多くの人々が接する公共空間である。毎朝起きてまちに出かける際、まず始めに足を踏み入れる公共空間が「みち」だろうし、旅行で新しくまちを訪れた時に最初に目にするのも、「みち」からみたまちの風景である。このように、最も親しみある場所でありながら、あまりに身近すぎてつい見過ごしてしまう「みち」において、近年、道路を占用して行うイベントや、オープンカフェの取組み、駐車帯の区画を利活用する取組み(パークレット)、あるいは、これらを実施するための暫定的な社会実験など、積極的な利活用を通じて「みち」のあり方を再考する取組みが、全国各地で盛んに実施されている。

 横浜市では、他の自治体に先んじて、1970年代から積極的に歩行者空間や人間的な公共空間を整備・運用する「アーバンデザイン」の取組みを重ねてきた。「くすのき広場」と呼ばれる、みなととまちをつなぐ「みちひろば」のデザイン。近代の空気をまとう風格と歴史を受け継ぐ「馬車道」の整備。歩行者専用の商店街を生むべく形成された「伊勢佐木モール」。そして、道路の幅を広げなくとも、各商店の1階部分を少しずつひっこめることで歩行者空間を生み出し(1955年)、その後も、1985年・2004年と、30年に一度、官民協働で街路空間のアップデートを繰り返し行ってきた「元町商店街」などである。また、日本初の近代街路として整備された「日本大通り」は、一時期車中心のみちとなってしまっていたが、2002年、歩行者中心のみちへと再整備され、現在では、日本大通活性化委員会を中心に、オープンカフェの常設や、多彩なイベント空間としての利用など、みちの豊かさを高めるためのマネジメントがなされており、市民や観光客などの利用者にも親しまれている。

 「関内さくら通り」では、2016年から年に一回、関内外に集まるクリエイターやデザイナーが中心となって、『道路のパークフェス』と呼ばれる、道路空間を用いながらどんな公共空間であるべきかを考えるインスタレーションやワークショップ、空間創出を図る取組みが行われており、そこでは、サイレントディスコ、チョークお絵かき、植栽の育成、図書空間、オープンウェディングなど、さまざまな活用の可能性が検証されている。

 「みち」はみなつながっている。こうした豊富な公共空間へのかかわり方がまちじゅうの「みち」に波及してゆくような、新たな展開を期待したい。


「関内さくら通り」の『道路のパークフェス』

「元町商店街」で開催された『STREET THE MUSICAL』


野原 卓

横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院准教授。東京大学助手・助教などを経て現職。横浜市の都市デザインや大田区モノづくりのまちづくりを始め、現場とデザインをつなぐ都市デザインマネジメントなどの実践・研究活動を展開。著書に『まちをひらく技術』(共著・学芸出版社)『アーバンデザイン講座』(共著・彰国社)など。

kanagawa ARTS PRESS

神奈川芸術プレス WEB版