知れば、知るほど、好きになる「弦楽四重奏」「ハープ(グランドハープ)」

音楽の小箱

弦楽四重奏

 クラシック音楽といえば豪華なオペラや管弦楽が思い浮かびますが、その核となるジャンルはヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロと簡素な編成の「弦楽四重奏」と言えるでしょう。

 弦楽四重奏曲の始まりはハイドンが1781年に作曲した『ロシア四重奏曲』。ハイドンは、主題(短いフレーズ)を転調*という手段と連動させて多様に変化・展開していく「まったく新しい特別の方法」(ハイドン)で作曲し、その手法はクラシック音楽の構成原理となりました。と、書くと少々難解ですが、文豪ゲーテが「4人の間で交わされる対話」と書いたように、4奏者の掛け合いに耳を澄ませば、会話劇のように時にスリリングに時にウィットに富んだ音楽の流れが心に迫ってきます。

 ハイドンの後継者ベートーヴェンは、弦楽四重奏でさらに革新的な表現を推し進めます。彼にとって管楽器も打楽器もない粉飾をそぎ落としたような弦楽四重奏は、作曲者が技術と精神力を尽くして自在に音を操り音楽上の実験を行う場であり、その伝統は今日まで受け継がれていると言えます。

 今日、弦楽四重奏団は、世界各地で毎年のように結成され、過去の名作を演奏するとともに作曲家に新作を依頼するなど、日々このジャンルを刺激的なものにし続けています。

 近年の傾向ですが、まとまりのある調和のとれた演奏より、奏者間の丁々発止の掛け合いの妙に比重を置いた演奏が増えていますので、弦楽四重奏を聴くのなら奏者の息遣いを直に感じられる小ぶりで親密な会場がお薦めです。

 神奈川県立音楽堂では11月末に世界最高峰のアルディッティが、神奈川県民ホール小ホールでは1月に気鋭のフラックスと、二つの弦楽四重奏団が登場。フラックス弦楽四重奏団公演では現在、公募新作のワークインプログレス&初演プロジェクト**が進行中ですのでご注目ください。


*曲の途中で調性を変えていくこと

**詳細はP8特集ページをご覧ください。


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  フラックス弦楽四重奏団 ©堀田力丸


楽器ミュージアム

ハープ(グランドハープ)

 クラシック・バレエの名作「白鳥の湖」。王子とオデット姫が出会うシーンの前に流れる優美な分散和音を奏でるのが、ハープです。

 その原型は古代エジプトやメソポタミアの壁画に見られますが、現代の三角形のタイプは、10世紀頃のアイルランドやウェールズの吟遊詩人の歌の伴奏楽器として使われたものです。

 今日の(グランド)ハープは高さ約180cm、幅約100cmで、指のおなかの部分ではじく弦は全部で47本あり、その音域は6オクターブ半(!?)。ピアノならこの音域だと白鍵+黒鍵=82鍵(音)となりますが、47弦では黒鍵の数だけ足りませんね。実はハープには黒鍵の半音を出す弦がありませんでした。ルネサンス期には黒鍵の音を出す弦を加えた二重ハープが、バロック時代になると白鍵にあたる弦の両側に黒鍵に相当する弦を張った三重ハープが考案されたのですが、ともに弦間の隙間に指を通さねばならず演奏は至難。そこで弦の付け根のフックを手で動かして弦の長さを変えて半音上げる仕組みが開発され18世紀前半には楽器の下に足ペダルを付けその操作で弦の長さを変える今日のグランドハープにつながるタイプが発明されました。

 かのマリー=アントワネットは輿入れにこのハープを携え、パリの王侯貴族の女性間で大流行させました。今日、ハープ奏者に女性が多いのはその名残なのかもしれません。

 19世紀に入ると、今日のグランドハープと同じ2段階のペダル操作で半音を上げ下げする「ダブルアクション・ペダル」が開発されます。ペダルは、右に4本、左に3本あるので、ハープ奏者は演奏中、ペダルを両足でひっきりなしに動かして大忙し。その姿は水面下で水を掻いている白鳥にちょっと似ていますね。


イラスト:ダブルアクションでは、ペダル操作によって、各弦の上部にある小さなディスクが回転して弦の長さを変えて音の高さを変える

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