Creative Neighborhoods 街と住まい 「左近山団地」

第10回

自然を資源に開かれたアイデアが

団地を活性化し、クリエイティブに再生する

「左近山団地」

「左近山団地パークプロジェクト」は、メディア(媒介)となって人々をつなぐ  撮影:藤岡泰寛


 横浜市旭区の左近山団地は、UR(独立行政法人都市再生機構)が管理する賃貸住宅と分譲住宅として1968年に建てられ、住戸数約4800戸、住棟約200棟に約8900人が住む巨大団地である。左近山団地でも居住者の高齢化や建物の老朽化が進み、空き家も年々増え続けている。

このような状況の中、左近山団地中央地区(分譲街区の約1300戸)では横浜市の「団地再生支援事業」の対象として2014年に選定され、翌年の2015年には管理組合が主体となって、空き家活用、オープンスペースの活用法を求めた広場の再整備コンペを開催した。最優秀案には、団地をまるごと公園化するという、ランドスケープ・アーキテクトの熊谷玄さんの事務所STGKが企画した「左近山ダンチパークプロジェクト」が選ばれた。この提案では、団地内の空き家住戸、そして自然環境を利用した外部の共有スペースにさまざまな人が「集まる」ためのユニークな提案がなされた。外部の共有スペースでは、歩く目的をつくる「さんぽみち・みち案内」、住民が共同で育てる「みちばた菜園」、ピクニックの場として利用する「左近山プレート」、また団地内の空き家では「図書館&勉強部屋」「趣味の家」「シェアストレージ」などが提案され、コミュニティの活性化や子育て世代の流入が期待された。プロジェクトの設計では、ワークショップが開催され住民の意見を聞きデザインに生かされ、近隣の小学校の子供たちも参加して2017年に広場「左近山みんなのにわ」が出来上がった。

 横浜市はその後も大規模団地再生事業を旭区で立ち上げ、2017年には旭区、UR、そして横浜国立大学の3者間で「左近山団地における大学による地域活動支援事業に関わる連携協定」を締結。学生は団地に入居し、地域・団地の活性化に協力することで地域活動費が助成される仕組みができた。学生たちは組織「サコラボ」を立ち上げ、商店街や自治会、福祉活動拠点を組織するNPO法人「ほっとさこんやま」など左近山団地を管理・運営する人たちと共に、地域を盛り上げる活動を続けている。住まいにおいては半透明の素材を窓に取り付けて断熱効果を高める実験に取り組む。

 左近山団地の緑豊かな自然環境は、住民と外部の人たちが連携したパークプロジェクトや学生居住などの創造的なアクションを生み、世代を超えた住民の交流を育む重要な資源である。資源を活かした「多様な世代や人々による運営組織」と「空間の更新」は、再生の鍵となって団地を活気づけ、新たな価値を生む。

ポリカーボネートを使った住居内の窓の断熱効果実験


寺田真理子

横浜国立大学都市イノベーション研究院准教授。キュレーター。1990年日本女子大学家政学部住居学科卒業。90- 99年鹿島出版会SD編集部。99-2001年「Towards Totalscape」展(オランダ建築博物館)、02年「ルイス・バラガン」展(東京都現代美術館)のキュレーション、企画を担当。07年〜横浜国立大学大学院 “Y-GSA”特任講師。18年〜現職。主な共著に『Creative Neighborhoods—住環境が社会を変える』(誠文堂新光社、2017年)。

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