知れば、知るほど、好きになる「ブロードウェイとウエストエンド」「ファゴット」

演劇の小箱

ブロードウェイとウエストエンド

ニューヨークのブロードウェイといえば演劇ファン憧れの地ですが、“ブロードウェイ”という町が存在するわけではありません。本来はマンハッタンを縦断する大通りの名前。その通りを中心としたミッドタウン地区にある40の劇場を“ブロードウェイ・シアター”、あるいは単に“ブロードウェイ”と呼んでいます。いずれも座席数が500席以上の劇場で、有名作・話題作が目白押し! ここで上演される作品が、年に一度開催されるトニー賞の対象になります。

 それに対して、座席数が100〜499席の劇場を“オフ・ブロードウェイ・シアター”、100席未満の小劇場を“オフ・オフ・ブロードウェイ・シアター”と呼び、マンハッタンのあちこちに散在しています。作品にもよりますが、一般的にオフ・ブロードウェイ作品は、ブロードウェイ作品の10分の1以下の低コストで製作され、その分チケット代も安い。若手クリエイターによる実験的な作品も多く、掘り出し物を探す感覚で楽しむことができます。なかにはオフ・ブロードウェイで評判を呼び、ブロードウェイに昇格した作品も。たとえば「コーラスライン」や「レント」、近年では社会現象を巻き起こした「ハミルトン」もオフ・ブロードウェイからのスタートでした。

 一方、ロンドンの劇場街といえばウエストエンド。こちらは地区の名前ですが、そのなかに40の劇場があり(小劇場を除く)、古くは17世紀に建てられたものも。ここから数え切れないほどの世界的なヒット作が生まれており、「キャッツ」や「オペラ座の怪人」、3月にKAAT 神奈川芸術劇場で開幕する「マンマ・ミーア!」もウエストエンド生まれ。ブロードウェイと並ぶミュージカルの二大聖地であり続けています。

文・浮田久子


イラスト:1999年に「マンマ・ミーア」が初演されたウェストエンドのプリンス・エドワード・シアター


楽器ミュージアム

ファゴット

 オーケストラの中ほどに上に向かって突き出す長い木管。それが木管楽器群のなかで一番大きく、一番低い音を出すファゴットです。高さは135cmほどですが、管は二つ折りになっていて全長は約260cm(重量は約3kg)もあります。この長さのおかげで、音域は3オクターブ以上もあります。首からストラップで楽器を吊るし斜めに構えて、両手の10本の指全部を使って演奏します。

 音を出すには、オーボエと同様、上下に重ねた2枚(ダブル)リードに息を吹き込むのですが、リードはオーボエにはないハンガーのフックのような形状の細い金属の管(ボーカル)につなぎ、それを本体に取り付けます。リードから吹き込んだ息は、ボーカルから本体の下に進み、一番下でUターンして開口している上のベルに向かって上がっていきます。ボーカルの先端の内径は約4mm、ベルの内径では約40mmと、管の内径は少しずつ広がっています。

 ファゴットは、伸びやかで深みのある低音でオーケストラの壮大な響きを支え、時に歯切れの良いコミカルな表現から悲痛な響きまで幅広い表現力に優れ、300年以上昔からクラシック音楽には欠かせない楽器となってきました。

 ちなみにこの独特な響きは、他の管楽器であればまっすぐ開ける指穴を斜めにくり抜くことで生まれます。とはいえこの開け方は、響きを狙ったものではなく、長い本体で指穴の位置が遠くなるため斜めにして指に近づけるためのものでした。19世紀に音量を大きくしようと本体を金属にし、まっすぐな穴にするといった改良が施されましたが、そうするとあの独特の響きが出ないことが判明します。こうしてファゴットは木製の管に戻り、斜めの穴を残して、その響きを継承していったのです。


イラスト:斜めの指穴を押さえるキーは、かつては3、4個だったが、今日では、穴の形状はそのままで20個以上のキーが装着されている

kanagawa ARTS PRESS

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