江畑晶慧(俳優)
何歳になっても新しい役に挑戦し、お客さまに感動を届け続けたい。
それが目標です。
劇団四季 ミュージカル 「マンマ・ミーア!」
KAAT神奈川芸術劇場
3月28日からKAAT神奈川芸術劇場で開幕するミュージカル「マンマ・ミーア!」は、1970年代に一世を風靡したポップグループABBA(アバ)のヒットナンバー22曲で綴られるミュージカル。世界中を熱狂させたこの作品で、主人公の母ドナと娘ソフィの両方を演じた経験を持つのが、江畑晶慧さん。芝居への情熱を胸に韓国から日本に渡り、劇団四季に入団して15年目。言葉の違いをものともせず、自分の信じる道をパワフルに突き進む彼女に、作品の見どころや横浜公演にかける思いを伺いました。
―ミュージカルとの出会いを教えてください。
まだ幼いころ、ファミリー向けのミュージカルを観たんです。自分が大好きなお芝居や歌、そして踊りの要素が入っていて、これだ! と思いました。以来、ミュージカル俳優を夢見るようになったのですが、「芸術高校に行きたい」と言ったら親に反対されて。「いい学校に入ったら俳優になるのを認める」と言われたので、猛勉強して、韓国でも有数の進学校に入りました。そこにいけば、周りの友だちと同じように医者や弁護士を目指すようになると親は考えたようですが、私の夢は消えなかった。大学に進学するときに、ようやく芸術系の学校に入ることができました。
―劇団四季に入団したきっかけは?
同じ学校の先輩が劇団四季にいて、「後輩たちにもぜひ劇団を紹介したい」と、韓国からの研修団を受け入れてくださることになりました。40名ほどが日本に行き、四季の上演作品を見たり、稽古に参加させてもらったり。その最終日に行われたオーディションに合格しました。当時まだ在学中だったので、1年後に卒業してからすぐに入団したんです。
―実際に入ってみていかがでしたか?
韓国から近いところに、こんなに優れた劇団があるのを知らなかったので、ショックを受けました。稽古場がたくさんあって、いつでも好きなときに稽古ができるし、実力さえあれば役をもらえる。ここなら自分の夢が叶うと思いました。
―言葉の心配はありませんでしたか?
心配よりも、「夢を叶えられるかもしれない」という期待のほうが大きかったですね。日本に来てから、「あ、言葉の問題があった」と気づいたほど(笑)。最初は1日7時間みっちり日本語を学んだのですが、苦にはなりませんでした。いざセリフとなると、微妙なニュアンスに苦労したこともありますが、だんだんと喋れるようになっていくのが、本当に楽しかったですね。
―「マンマ・ミーア!」はすでに日本で3千回以上公演されていますが、この作品の魅力は?
なんといってもABBAの音楽ですね。リリースされたのは何十年も前のことですが、いま聴いてもすばらしい曲ばかり。私はABBAを知らない世代ですが、「マンマ・ミーア!」を通して彼らの音楽を知り、大ファンになりました。あとは共感できるストーリーも大きな魅力です。主人公はシングルマザーのドナと、一人娘のソフィ。たとえ恵まれた状況でなくても、前向きに生きて、幸せを見つけようとする二人の姿に勇気をもらえるのではないでしょうか。
―カーテンコールの楽しさは格別! という評判です。
「マンマ・ミーア!」のカーテンコールは、会場がひとつになって歌ったり踊ったりできるので、お客さまも一緒に舞台に立っているような感覚になれると思います。みなさん盛り上がって、とてもハッピーな笑顔で踊ってくださるので、「この仕事をやっていてよかったな」と思える瞬間ですね。
―江畑さんは2006年からソフィ役を、2014年からはドナ役を演じてこられました。この作品に対して特別な思いがあるのではないでしょうか。
ソフィ役からドナ役になった俳優は、世界でもほとんどいないそうです。両役を演じたことで、作品をより深く理解できるようになりました。二人の主役を演じられる機会はなかなかないので、とても愛着がありますね。
実はドナ役のお話をいただいたのは、まだソフィ役として舞台に立っているときだったので、最初はとまどいました。いずれはドナを演じてみたいと思っていましたが、実年齢よりはるかに上の設定なので、まだ早すぎる! と。自分から遠いところにあった役なので、それを演じるためには、とにかく努力するしかない。この役への挑戦は、入団当時の初心を思い出させてくれるような大きなターニングポイントになりました。
―ドナとご自身との共通点は?
がまん強いところと、自分がこれだ!と思ったら、誰になんと言われようと、前だけを見て突っ走るところが似ていると思います。でもドナはただ強いだけでなく、とても愛情深い人。同時に3人の男性から惚れられるほど魅力的な女性なので、そういう部分はうらやましく感じますね(笑)。
―横浜公演に向けた意気込みをお聞かせください。
前回ドナ役を演じてから5年が経ち、年齢的にも少しドナに近づきました。人間として成長した今は、ドナの気持ちをよりリアルに伝えられると思うので、演じるのが楽しみです。もっと稽古を積んで、お客さまの心にすっと入っていけるようになれたらと思っています。
―俳優として大切にしていることは?
常に素直な心を持つこと。舞台の上では嘘をつきたくないので、正直であることを大切にしています。ひとつひとつのセリフを、どれだけリアルに伝えられるか。そのために普段から本を読んだり、映画を観たり、さまざまな経験を積んで自分を深めるようにしています。あとは体調管理ですね。マヌカハニーは欠かせません。
―これまでに挫折を感じたことはありますか?
挫折はありますが、俳優を辞めようと思ったことは一度もありません。たまに役の演じ方について、どうすればいいのかわからなくなって悩むこともありますが、そういうときはまずいろいろな方法を試してみて、それでもダメなら一旦リセットし、基本に戻るようにしています。呼吸法や発声法といった基本に戻ると、意外と突破口が見出せたりするんです。その前に悩みもがいた時間があるからこそ、基本に戻ったときにシンプルに解決できるのかもしれません。だから、どちらも大切な時間だと考えています。
―俳優人生を歩む中で、心に残っている言葉はありますか?
浅利慶太先生の「居て、捨てて、語る」という言葉です。「居て」は、役としてそこにいること。「捨てて」は、演じようとする気持ちを捨てること。そのうえでセリフを「語る」。”それは役として生きる“こと、その瞬間に私がドナとして生きるということだと思います。その言葉が一番心に残っていますし、私のモットーですね。
―今後の目標をお聞かせください。
私は俳優として生涯を終えたいと思っています。何歳になっても新しい役に挑戦し、お客さまに感動を届け続けたい、それが目標です。
my theater myself
私にとってのKAAT神奈川芸術劇場
横浜にはよく遊びに行きますし、私にとって身近な街。KAAT神奈川芸術劇場は舞台を横から眺められる席もあり、正面からは見えない舞台の奥の方までよく見えるのも楽しいところ。また、以前客席に座ったときに音の良さを実感したので、ABBAの音楽の魅力をより感じていただけるのでは、と思っています。
取材・文:浮田久子
撮影:末武和人
江畑晶慧 Ebata Masae
劇団四季俳優。2005年3月オーディション合格。「ライオンキング」で四季での初舞台を踏み、のちに日本・韓国両公演でナラ、「ウィキッド」エルファバ、「アイーダ」アイーダ、「サウンド・オブ・ミュージック」マリア、「キャッツ」グリザベラ、「エビータ」エビータを務める。「マンマ・ミーア!」ではソフィ、のちにドナを演じている。
2020年3月28日(土)~8月10日(月・祝)KAAT神奈川芸術劇場 〈ホール〉
作詞・作曲:ベニー・アンダーソン ビョルン・ウルヴァース(一部スティグ・アンダーソンとの共作による)
台本:キャサリン・ジョンソン
振付:アンソニー・ヴァン・ラースト
演出:フィリダ・ロイド
出演:劇団四季
全席指定 S 11000円 A・サイドA 8800円 B・サイドB 6600円
C・サイドC 3300円 サイドイス付立見 3300円
劇団四季予約センター 0570-077-489(10:00~18:00)
0コメント