愛と哀しみの傑作(マスターピース)アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ 「星の王子さま」
アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ
「星の王子さま」
1930年、フランスの航空会社のアルゼンチン支社長だったサン=テグジュペリはあるパーティーで美しい女性に出会います。彼女の名前はコンスエロ・カリーニョ。アルゼンチンの在仏外交官であった人物の未亡人です。彼は強引ともいえる申し出をします。「そうだ、あなたは僕と一緒にこれから飛行機で日没を見に行くのです」。その日、コンスエロはブエノスアイレスの空の上で、「なんて小さな手だ。その手を永遠に僕にください。」と突然プロポーズされます。彼女こそ、今も世界中で愛される傑作「星の王子さま」の、バラのモデルとなったといわれる女性です。
翌年、二人はフランスで暮らし始めます。コンスエロの献身もあり、サン=テグジュペリは「夜間飛行」でベストセラー作家となり、多くの女性崇拝者と時を共にすることとなります。一方、気性の激しいコンスエロは寂しい妻の境遇に甘んじる気はありませんでした。連夜のパーティーとファッション三昧の贅沢な暮らしを始め、この後、二人は同居と別居を繰り返すこととなるのです。
皮肉なことにナチスのフランス占領が夫妻を再び結びつけます。アメリカに亡命した二人は、1942年、ニューヨーク郊外の海辺に家を借り、静かな環境の中、親密な関係を取り戻します。そんな生活から生まれたのが「星の王子さま」です。
作中で王子はバラについて語ります。「花は無邪気。棘さえあれば、無敵だと思っている」。「見え透いた企みの中に隠れた愛情に気づくべきだった」。「花ははかない。世界から身を守るために4本の棘しか持っていないのに、一人ぼっちで星に残してきてしまった」。
1943年、サン=テグジュペリは、祖国フランスを守るために空軍パイロットに志願し、対独戦線の北アフリカへ旅立ちます。翌年、地中海の偵察飛行に出たまま消息を絶ってしまうのです。コンスエロのもとに二度と戻ることはありませんでした。
アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ Antoine Saint-Exupéry(1900-1944)
フランスの作家、操縦士。自身のパイロットとしての体験に基づいた作品を発表。代表作は「夜間飛行」、「人間の土地」、「戦う操縦士」、「星の王子さま」など。2003年、マルセイユ沖の海底で搭乗機の残骸が発見された。
イラスト:遠藤裕喜奈
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