北澤裕輔(劇団四季「オペラ座の怪人」 演出スーパーバイザー
「人生は生きるに値する」
そんなメッセージを伝える作品を
劇団四季では上演し続けています。
劇団四季 ミュージカル
「オペラ座の怪人」
KAAT神奈川芸術劇場
1986年の世界初演以来、35か国で上演され、累計観客動員数1億 4000万人を誇るミュージカル「オペラ座の怪人」。2004年の映画版も好評を博しました。日本では劇団四季が1988年から上演、総入場者数665万人を超える人気作品です。本年3月からのKAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉での上演にあたり、今回演出スーパーバイザーを務める北澤裕輔さんに、見どころについておうかがいしました。
—作品との出会いについてお聞かせ願えますか。
親が舞台好きで、小学生のころからファミリーミュージカルをよく観ていました。楽しいけれども自分が目指す世界とはちょっと違うと思っていたんです。それが、音大生のとき、劇団四季の「オペラ座の怪人」を観に行って、「こんなにクラシック音楽寄りのミュージカルもあるんだ、これはやってみたいな」とすっかり考えが変わりました。クラシックの分野でやっていこうと思っていた僕にとって、劇団四季に入団するきっかけともなった作品ですね。
歌の表現を超えたミュージカル
—入団後、この作品のアンサンブルとして初舞台を踏み、その後ラウル子爵役を演じられましたが、実際に出演してみていかがでしたか。
「観る天国、やる地獄」ですね。思った以上に体力勝負(笑)。クラシックですと、まずは譜面と向き合いますが、ミュージカルとなると、身体と声との連動、身体表現が重要で、まさにお芝居なんだなと。歌にしても、音をきちんと出すとか声の色をきれいにするとかそういったことを超えて、つぶした声も必要に応じて使うなど、セリフの延長として言葉を発する、発想と発声とを徹底して連動させるということを、先生方や先輩方に叩き込まれましたね。
初舞台はとにかく必死でしたから、「あの『オペラ座の怪人』に出られた!」という感動は正直なかったですね(笑)。それから、一回一回常に高みを目指し続けてきました。様々な作品に出演するようになり、全体を俯瞰できるようになって、「オペラ座の怪人」の深みもまた見えてきたという感じです。
名作オペラへのオマージュも
―クラシック畑育ちの北澤さんの心を最初の観劇からぐっととらえた、この作品の魅力とは?
アンドリュー・ロイド=ウェバー作曲のすばらしい音楽をはじめとする芸術性の高さですね。豪華絢爛な舞台装置や衣裳、照明に俳優たちが加わったコラボレーションもまた格別です。その核となっているのが、怪人=ファントムの悲哀を描く人間ドラマ。そこが、長年上演されてきてもまったく古びず色褪せない魅力ではないかと思います。
作品の前半からして、ヴェルディのオペラを思わせるんです。劇中劇の中にも、モーツァルトの「フィガロの結婚」の筋だ! とすぐにわかるものもありますし、入れ替わりの場面などはもう「ドン・ジョヴァンニ」で、それが物語本編にも絡んでくる。もともと僕は、モーツァルトやヴェルディ、プッチーニ、それにワーグナーといった作曲家のオペラが大好きなんですが、そういったオペラがモチーフとなっているシーンが随所に出てきて、思わずニヤッとしてしまう感じなんですね。クラシック音楽の素養がある方だとますます深くお楽しみいただけるのではないかと思います。好きなナンバーばかりですが、オペラ好きからこの作品にはまった僕が一つお気に入りを挙げるとしたら、「プリマ・ドンナ」という七重唱でしょうか。
―演出スーパーバイザーとして果たされている役割と、そのお立場からの公演に向けての抱負をお聞かせ願えますか。
これまでの演出を守り、作品が摩耗しないようクオリティを保っていくことが演出スーパーバイザーの役割ですね。今回の横浜公演に向け100人近くの劇団員がオーディションを受けました。その中から選ばれた新しいキャストにも、作品の魂を伝授し、共にクオリティの高い舞台を製作していきたいと思います。
メッセージをきちんと描く作品を
―幅広い観客層で楽しむことのできる作品ですが、ミュージカルというジャンルにまだなじんでいない方に、その魅力をアピールするとしたら?
歌がドラマとして前面に押し出されていく、語りの延長として存在する、その魅力でしょうか。そういった感情表現に魂を揺さぶられるということなんだと思います。
また最近のミュージカル作品では要求される音域が広がっていますが、その中においても、30年以上前に書かれた「オペラ座の怪人」は、難しいナンバーが多い、音楽的レベルの高い作品であるということではないでしょうか。
―ミュージカル流行りの昨今、各地の劇場でミュージカル作品が上演されていますが、その中でも劇団四季の上演作品の強みとは?
作品選びにあたって、ただおもしろいというだけではなく、作品にきちんとメッセージがあるのかを考えます。それは、作品が「人生は生きるに値する」「人生は素晴らしい」といったメッセージを持っているかどうか。また、「オペラ座の怪人」の場合には、台本の感動のみならず、音楽やバレエ、舞台美術など総合的な芸術性の高さが強みと言えると思います。
―その意味でも、「オペラ座の怪人」はしっかりと描かれるものがある作品ですね。
究極的には愛を描いていると思うんですね。クリスティーヌという歌姫をめぐって、パリ・オペラ座の地下に棲む怪人と、クリスティーヌの幼なじみであるラウル子爵が対立する。ラウル子爵はパーフェクトとされる人間ですが、その彼も彼女の愛を得られるのかどうか。その一方には、外見的には醜いとされる怪人がいて、心、愛をもって接することによって、愛を返されるかもしれない。人間誰しもコンプレックスというものを持っていて、それぞれの人間の悲哀が描かれている、それがこの作品の魅力ですよね。
my theater myself
私にとってのKAAT神奈川芸術劇場
横浜は大好きでよく買い物しに行きます。神奈川県民ホールで初めて観劇したオペラ「リゴレット」は忘れがたいですね。KAAT神奈川芸術劇場は舞台を包み込むような真紅の客席が、パリ・オペラ座の雰囲気も感じさせるので、作品のシチュエーションにも合い、その部分のリアルさがより増しそう。
豪華な舞台装置が劇場にどう映えるか、僕自身楽しみです。
取材・文:藤本真由(舞台評論家)藤本真由オフィシャルブログ「突撃!あひる観劇日記」
撮影:末武和人
北澤裕輔 Yusuke Kitazawa
国立音楽大学声楽学科卒業。二期会オペラスタジオを経て、1998年四季劇場開場記念オーディション合格。「オペラ座の怪人」で初舞台を踏み、のちにラウル、アンドレ、「ライオンキング」シンバ、「ジーザス・クライスト=スーパースター」ペテロ、ヘロデ王、「夢から醒めた夢」配達人、「李香蘭」、「異国の丘」、「ウィキッド」フィエロ、「キャッツ」スキンブルシャンクス、「美女と野獣」ビースト等を演じる。2015年より、「オペラ座の怪人」の演出スーパーバイザーを務める。
2017年3月25日(土) 〜8月13日(日) KAAT 神奈川芸術劇場 〈ホール〉
作曲:アンドリュー・ロイド=ウェバー 作詞:チャールズ・ハート 追補詞:リチャード・スティルゴー
台本:リチャード・スティルゴー /アンドリュー・ロイド=ウェバー
演出:ハロルド・プリンス 振付:ジリアン・リン
美術:マリア・ビョルンソン 照明:アンドリュー・ブリッジ 音響:マーチン・レーバン
音楽監督:デイヴィッド・カディック オーケストレーション:デイヴィッド・カレン /アンドリュー・ロイド=ウェバー
日本語台本:浅利慶太 翻訳:安東伸介
オリジナル企画=浅利慶太
出演:劇団四季
全席指定 S 10800円 サイドS 10800円 A 8640円 サイドA 8640円
B 6480円 サイドB 6480円 C 3240円 サイドイス付立見3240円
劇団四季 東京オフィス 03-5776-6730(9:30~18:00)
劇団四季:『オペラ座の怪人』:横浜公演2017年3月25日(土)開幕!
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